第43話 銀の黎明
〈銀の黎明〉の本拠地は商店街の一角にあった。そこには、どこの街、どこの地区にもある、地域の雑貨屋って感じの、近所の人だけが買いに来てずっとだべっている、よく潰れずに今まで来れたなって雰囲気の薄暗い店が、ひたすらに並んでいた。
その一角に小屋一軒分くらいのサイズの豚の像があり、隣に東屋があった。舗装を突き破って生えている街路樹に囲まれたそこが、名高い徒党の本拠地だ。殺人者に幹部を軒並み排除され、臨時的に移転したのかと思ったが、公社支部で聞いたところずっと昔からこの東屋が拠点なのだそうだ。
エルナが近づくと、東屋は霞がかっているように見え、それはもうもうとした煙がそこを包んでいるからだった。煙の中から「誰だ?」という声がした。
エルナは、公社の募集を見て幹部になりに来た、と答える。
「ついに来たか、あの〈屍人殺し〉の野郎にビビらない豪胆な英雄が。お前を歓迎する。オレのことは〈覆われし者〉とでも呼んでくれ」
現在の暫定的な代表者である彼は、煙に纏わりつかれるという迷宮病の症状のため、顔も種族も分からなかった。まずはお前の名を聞かせてくれ、とヴェールドに問われ、自分は〈第八聖堂のエルネスティーネ〉、エルナと呼ばれている、と名乗った。
「よしエルナ、さっそく〈銀の黎明〉について説明しよう。オレたちは〈祈祷師〉だ。ここで言う祈祷師ってのは、つまりダグローラとかの神々以外の存在に祈って、その恩恵を受けるという魔術師を意味する。その存在ってのは魔物だったり偉大な英雄だったり、譫妄状態で見る幻覚だったりする。しかしオレたちの〈ヴァ=マ〉はそのどれでもない。端的に言うと、共通言語・合言葉、って感じだろうか」
昔、一人の迷宮守りがこの東屋で、初対面の相手に「あなたは〈ヴァ=マ〉を知ってるんじゃありませんか?」といきなり尋ねた。周囲の人々は、なんだそれは、と疑問に思ったが、問われた相手は「はい、知っています」と何のためらいもなく答え、その二人は徒党を組んだ。それが〈銀の黎明〉の始まりだった。
「実際のところ、〈ヴァ=マ〉を知っているかどうかという点については重要じゃない。オレは急に知ってるかって言われて、急いでたんで『ああ、はいはい』みたいに答えたら保有者になっていた。知っているふりをしているってわけじゃないが、オレが知っていると言ったから、オレは〈ヴァ=マ〉を知っている。で、お前はどうだ?」
エルナは、この矛盾に満ちた存在を支持することに決めた。ラップローヴが反応している。〈ヴァ=マ〉を新たなる力として取り込むべきだ。




