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DUNGEONERS:LIFEPATH  作者: 澁谷晴
1:Gavin Lau Wadi
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第4話 助言者マッブ

 門の外は噴水と名も知らぬ英雄像が並ぶ広場だった。野外のように思えたが、頭上には天蓋があり、ここも建物の内部だ。大きな魔力灯から太陽のような光が注いでいるし、鳥の群れさえ飛んでいた。


『ここはドルススの下層だね。危険な迷宮は警備兵が守ってるんだけど、赤蜘蛛邸宅はそんなでもないから出入り自由ってわけ、ちなみに君がぶっ倒れてた間に、あの階層はエフェメラが掃除しといたんだよね』


 妖精がガヴィンにしか聞こえない念話で説明した。


『ちなみにあたしはマッブ、ヴィト爺の使い魔のフェアリー。よろしくねガヴィン』


 情報を得るためにまず行くべきはどの場所か、と尋ねると、


『そりゃあもちろん、迷宮公社だね。ついでに一杯飲んじゃおう。朝だけど気にせずに――あれ、そういえばお金持ってる?』


 背嚢にはコイン一枚なかった、あいにく無一文だ。


『あちゃー、そっかぁ。〈変容する獣〉の中には結構お金があったから、渡しとけば良かったねぇ。ま、その噴水の中にコインがいくつか落ちてるよ、当面の酒代には――あ、皆がちゃんと自分で稼げって言ってる、「我が帝国は強さこそが鉄則、自立せよ」っていうのが団員の総意だって。それを言うなら手段を選ばないのも強さのうちと思うけど、まあガヴィンは立派な魔剣があるから、まずはそれを試すのが筋か』


 〈変容する獣〉の団員たちは赤蜘蛛邸宅の下の、それなりの深さまで到達した腕利き揃いなのだろう。今から戻って当面の資金を借りることもできるが、ガヴィンも彼らの意見に同意し、迷宮守りとして働き日銭を得ることにした。


『よし! じゃあ公社に行こう。目印は――』牛頭の魔物の像だな、とガヴィンは先んじて言う。『おー、ガヴィンは迷宮守りとしての知識はうっすら残ってるみたいだね。そうだよ、そいつらのモデルになったのは、ずうっと昔に〈ミノス〉っていう迷宮守りが使い魔として呼び出していた魔物で、だからミノスの牛(ミノタウロス)って呼ばれてるんだ』


 広場を横切り、野菜や魔法薬、書物、ミイラ、臓物、ガラクタにしか見えない代物が積まれた露店が並ぶ市場に入った。武器を帯びた、自分と同業の迷宮守りや、傭兵らしき人々も多数いる。彼らの大半は、面や兜、布などで顔を覆い隠している。あれは確か、帝国独自の風習のはずだ。都市外の苛烈な砂漠の、日差しや風から身を守るためのものだが、同時に呪術的な意味をも持つ。エフェメラたちエルフが真名(トゥルーネーム)ではなく鳥獣や植物や古代の英雄などに由来する纏名(クロークドネーム)を名乗り、迷宮守りたちがあだ名で互いを呼び合うように、世界そのものから身を守る――今日では形骸化した慣習だが、それでもまだ、いくばくかの効果はあるはずだ。敢えて顔や名前を失うことで、彼らは新たな力を得る。


 自らの過去を失ったガヴィンもまた、その恩恵に与れるに違いない。

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