第4話 助言者マッブ
門の外は噴水と名も知らぬ英雄像が並ぶ広場だった。野外のように思えたが、頭上には天蓋があり、ここも建物の内部だ。大きな魔力灯から太陽のような光が注いでいるし、鳥の群れさえ飛んでいた。
『ここはドルススの下層だね。危険な迷宮は警備兵が守ってるんだけど、赤蜘蛛邸宅はそんなでもないから出入り自由ってわけ、ちなみに君がぶっ倒れてた間に、あの階層はエフェメラが掃除しといたんだよね』
妖精がガヴィンにしか聞こえない念話で説明した。
『ちなみにあたしはマッブ、ヴィト爺の使い魔のフェアリー。よろしくねガヴィン』
情報を得るためにまず行くべきはどの場所か、と尋ねると、
『そりゃあもちろん、迷宮公社だね。ついでに一杯飲んじゃおう。朝だけど気にせずに――あれ、そういえばお金持ってる?』
背嚢にはコイン一枚なかった、あいにく無一文だ。
『あちゃー、そっかぁ。〈変容する獣〉の中には結構お金があったから、渡しとけば良かったねぇ。ま、その噴水の中にコインがいくつか落ちてるよ、当面の酒代には――あ、皆がちゃんと自分で稼げって言ってる、「我が帝国は強さこそが鉄則、自立せよ」っていうのが団員の総意だって。それを言うなら手段を選ばないのも強さのうちと思うけど、まあガヴィンは立派な魔剣があるから、まずはそれを試すのが筋か』
〈変容する獣〉の団員たちは赤蜘蛛邸宅の下の、それなりの深さまで到達した腕利き揃いなのだろう。今から戻って当面の資金を借りることもできるが、ガヴィンも彼らの意見に同意し、迷宮守りとして働き日銭を得ることにした。
『よし! じゃあ公社に行こう。目印は――』牛頭の魔物の像だな、とガヴィンは先んじて言う。『おー、ガヴィンは迷宮守りとしての知識はうっすら残ってるみたいだね。そうだよ、そいつらのモデルになったのは、ずうっと昔に〈ミノス〉っていう迷宮守りが使い魔として呼び出していた魔物で、だからミノスの牛って呼ばれてるんだ』
広場を横切り、野菜や魔法薬、書物、ミイラ、臓物、ガラクタにしか見えない代物が積まれた露店が並ぶ市場に入った。武器を帯びた、自分と同業の迷宮守りや、傭兵らしき人々も多数いる。彼らの大半は、面や兜、布などで顔を覆い隠している。あれは確か、帝国独自の風習のはずだ。都市外の苛烈な砂漠の、日差しや風から身を守るためのものだが、同時に呪術的な意味をも持つ。エフェメラたちエルフが真名ではなく鳥獣や植物や古代の英雄などに由来する纏名を名乗り、迷宮守りたちがあだ名で互いを呼び合うように、世界そのものから身を守る――今日では形骸化した慣習だが、それでもまだ、いくばくかの効果はあるはずだ。敢えて顔や名前を失うことで、彼らは新たな力を得る。
自らの過去を失ったガヴィンもまた、その恩恵に与れるに違いない。