第37話 差し挟まれた経歴
ガヴィンは困惑した。あの怪物は、ドルススのみならず他の迷宮にも同種のものが潜んでいるのか。それは、喰らった相手の姿と力を奪うものかと尋ねると、アスランは頷き、
「そうです。奴の存在が明らかになる前から、密かに探索者を殺していたものと思われます。奴が好んで化けていたのは、エルフの女性の迷宮守りの姿でした。人当たりが良く、言葉巧みにひと気のない場所に誘い込んで殺害していたようですね。もしあれが迷宮の外に出ていたらと思うと、まことに恐ろしいことです」
それはガヴィンを導いたエフェメラだろうか――いや、人当たりの良いエルフなどどこにでもいる。だが、あるいはそいつはドルススで出会った〈徒党〉と同一個体なのか? もしそうだとすれば、あまりに奇妙だが、ラップローヴの不安定性を考えれば否定はできない。シヴ=イルヴァに生きたガヴィンや〈夜居〉の傭兵としてのガヴィンが、この世界に組み込まれたように、どこかの世界で退けた〈獣〉が、味方のアドバイザーとして転用された。そんなこともあり得るのではないだろうか。
硬い表情を浮かべて沈黙したガヴィンを、陰惨な魔物の話のためと解釈したのか、アスランは努めて明るい表情を浮かべ、励まそうとした。
「そのような顔をしないでください、あなたは勝利者なのです、ガヴィン。あなたがラップローヴにて一太刀を浴びせ、あの獣めを両断した様を、私は未だにしかと記憶しております」
アスランは確かに、そのような魔剣を以前は持っていなかった、と先ほど告げた。何らかの理由で隠していたが、うっかりと口が滑ったのか? 彼は、そのような色は見せない。問いただそうとしたところで、部下の僧兵が慌てた様子でアスランを呼びに来た。彼は勘定分の小銭を置いて、慌ただしく店を出て行った。
ガヴィンは魔剣を本に変化させ、自らのページを開こうとしたが、その途中で手を止めた。悍ましい獣が描かれている――長い毛に覆われた、ワニと犬を組み合わせたような姿。六本の手足。大きく裂けた口。
【〈変容する獣〉――ガヴィン・ラウ・ワーディによって〈銀狼洞窟〉で倒された。捕食した者の姿と力を奪い――】
ページの下部に、その犠牲者の名が羅列されている。エフェメラや〈悪鬼のヌミトル〉、召喚士ヴィト、その他多くの人族と魔物の名。考えてみれば、この魔物とラップローヴの力はよく似ている、自らが変身するのと他者を変化させるという違いはあるが。そうガヴィンは考えながら、冷めた茶を飲んだ。




