第36話 その怪物
その若者はロドー外周家第三子、守人頭アスランと名乗った。積もる話もありましょう、と彼は茶に誘った。
「長旅でお疲れでしょう。この地は苛烈です、スゥレ様の腕に抱かれておりまする故」
門前町は当然ながら寺院が多く、同じ位に道場と思しき、大勢の掛け声の響く建物も多かった。茶店に入り、菓子などを頼んだところでアスランがまず口を開く。
「既に〈夜居〉の団員を辞したとのことでしたが、こたびは迷宮守りの任務でしょうか、それとも修行ですかな? そのような魔剣、以前はお持ちになっていませんでしたね」
運ばれて来た焼き菓子を口に運び、アスランが問うた。ガヴィンは直截に、自分は過去の記憶を失ったのだ、と告げる。身に帯びていた手掛かりは、ロドー家からの感状のみだった。そのために、詳細を明らかにしようとこの地に舞い戻ったのだ。
説明を聞いて、アスランは神妙に頷く。
「迷宮病の症状でしょうか、記憶喪失というのは少なくありません。分かりました、あなたはこの地にとっての恩人、過去を取り戻すために助力いたしましょう。この私の知っている限りをお伝えします」
ガヴィンはアスランに、仕事中ではなかったのか、と尋ねると、今日は休暇で、一日中迷宮に潜る予定だったが、ガヴィンに協力するほうが大事だとの答え。重ねて礼を告げ、自分は以前、どのような立場としてここに来たのか、と聞いた。
「あなたは〈夜居〉の隊長として、隊商の片道護衛でこの地を訪れました。その際は魔剣は未だ帯びていませんでしたが。部下からの信頼は厚く見えました、あなたの実力を信頼しているようでしたね。もちろん私も、話しただけでそれはすぐに分かりました。自信に満ち、堂々としていて、己の力の使い方を全て把握しておられました」
アスランや僧兵たちはガヴィンを気に入ったようで、迷宮の警備任務の手伝いなどを依頼し、ひと月半ほど滞在した。再び隊商の護衛を受け、この地を出て行く直前にその怪物が〈銀狼洞窟〉の浅い階層に突如出現した。
「あなた方は他の迷宮守りや守人と共に怪物に挑み、その大部分が敗れ、喰われていきました。恥ずかしながらこの私も一矢報いたものの、致命傷を与えるには至りませんでした。ガヴィン、あなたがいなければ私は死に、この門前町も壊滅の憂き目に合っていたやも知れません。私としては、感謝してもしきれないのです」
その当時、ラップローヴはまだ持っていなかったにもかかわらず、それほどの魔物をどうやって退治したのだろうか? 自分には他に何らかの力が備わっているのか。それを尋ねようとしたとき、アスランは笑みを浮かべ、言った――
「それにしても本当に恐ろしい敵でしたよ、なぜあのような浅い階層にいたのか、今でも分からぬままです――あの〈変容する獣〉は」




