第32話 資格者
ラップローヴの変形した、赤い竜の書には、これまでラップローヴが斬った存在について、迷宮公社の配布資料のような図形付きの資料として記載されていた。〈徘徊スケルトン〉、〈肉斬り巨人〉、〈訓練場の凶手〉。〈猛進オクルス〉と〈闘技窖の胴元、キーラ〉、ナシラが呼んだ〈羊頭悪魔〉や、〈向こう傷のテセウス〉まで。これでそこいらの生物を斬ったら、あの傷面の戦士テセウスがこの場に出現するのだろうか。彼の意志はどうなっているのだろう。
「一般論で言うなら、それは恐らく、元のままではなく、剣によって変質させられたものとなるだろう。本物の彼はここにはいない。使い捨てるも仲間にするも、そなたの気分次第だ」
罰せられたりはしないのか、と尋ねるとエゲリアは怪訝な顔となり、
「魔剣で作られたのであれば、それは迷宮人と同じだ。彼に命じて殺人をさせたり、都市機能を破壊させたりするなら別だが、生み出すだけなら法には触れない」
自分が、どこか遠くで見知らぬ相手に分身として呼び出されているなら、それは恐るべきことのような気がしたが、今はそれを議論してもしかたがない。エゲリアに〈夜居〉という傭兵団について尋ねた。
「ああ、聞いたことはある。その名の通り、夜間警備を主に担う組織だ。そなたはその任務の一環で、僧院に雇われたのではないか? たった一人ではなく、部隊としてであろうが。過去を取り戻す足掛かりにはなるだろう」
しかし、それもまた異世界より追加された現実のようだ。そう言うと、再びエゲリアは妙な顔をした。
「だとしてもこの世界のそなたにとっては、もはや現実なのではないか? そなたの情報が書かれたページに記載されているのだ。気に入らなければ、その部分を塗り潰して、別の何かを書き加えてみてはどうだ? わたしの同僚として〈烏〉に加わるのもいいかも知れぬぞ。あるいは不死者として〈不死兵団〉にでもな」
自分が何者かは、自分が定義し、順守するということか。少しばかり考え、ガヴィンは〈夜居〉の一員という記載はそのままに、僧院領を目指すことにした。そう決めたところで、エゲリアは荒唐無稽な発言をし始めた。
「それから最後に一つ付け加えておこう。【ラップローヴの使用者は、これを振るう】という当たり前の定義づけが見えた。どのような状況であってもだ。ガヴィン、そなたはあるいは、既に不死者かも知れぬな。死んでいてはラップローヴを振るうことはできん。負傷していたり、心が弱っていてもだ。そなたは剣を振れぬほどの傷を負うことは、決してないのやもしれぬぞ」




