第31話 本
「その異世界の記憶、情報、現実。そういったものがこの剣を通じてこちらの世界に流入した。向こうでそなたはシヴ=イルヴァにいる。だからこちらでも、そうあるべきだ、という混乱だ。我らが目覚めの刹那、夢と現の違いにまごつくようなものだ。剣が目覚めつつあったために発生したのだろう」
ラップローヴには斬った相手の情報だけでなく、使用者の情報も刻み込まれているというわけか――異世界のものも含めて。
「そうかも知れんが、まだなんとも言えんな。これの本質はそれどころではない。これは、矛盾の塊だ。だからこそ危険な魔剣で、すなわち強力というわけだ」
エゲリアは魔法具に触れるだけで、その全容を明らかにする力を持っている。それでも、ラップローヴのように、即座にすべてを理解できない高位の秘宝が存在する。
「わたしが分かったことだけを述べよう。魔剣ラップローヴを振るうためには資格者ではなければならない。そして、資格者は、この剣を振るえる者でなくてはならない」
資格者となるために剣を振るおうとしても、未だそうではないために叶わない。箱を開けるためには、その中にある鍵が必要だ、というわけか。
「そうだ。それが根幹をなす一つ目の矛盾だ。他にもどうやら、同じような矛盾をいくつも内包し、それらが魔剣の存在意義となっているようだ。現在の使用者がそなたであることは間違いない、どのようにしてその資格を得たのかは分からぬがな。
そしてこの剣は、何らかの対象を屠るために作られたものだ。そやつを斬ることは尋常の手段では叶わぬだろうが、資格者は必ずそうする定めのようだ。ガヴィン、そなたはきっとそれを成し遂げるであろう、恐らくは、ひどい矛盾に翻弄されながらな。その考えただけで頭痛のする戦いに向けて、わたしからの贈り物がある」
そう言ってエゲリアが再び剣に手を触れると、ラップローヴは姿を変え、一冊の本と化した。拍子に赤い竜が描かれた、分厚い書物だ。
最初のページには使用者たる獣人の精巧な肖像が描かれていた。【ガヴィン・ラウ・ワーディ。ラップローヴ所有者】
その後に【バカン出身】という歪んだ文字があり、二重線で消され、帝国スゥレ僧院領出身、と訂正されていた――これが異世界と混じり合った情報というわけか――〈銀狼洞窟〉にて魔物退治の功を上げた、という情報が書かれている。そして、その下に歪んだ文字で【傭兵団〈夜居〉の一員】と書かれている。これもまた、異なる世界から流入した現実なのだろうか?




