第30話 魔剣の調査
門を警備隊が固めていた。エゲリアはひるむことなく進んでいくが、一人の衛兵が手にしているランプから、煙が彼女の方に伸びて来た。魔術師が使役する精霊〈ジン〉による探知だ。
「止まりたまえ。現在〈眠らぬ竜の兵団〉の奴らが、エルフの女を探している。傭兵団からの脱走者など、市当局の感知するところではないのだが、手配犯には違いない。やましいことがなければ、仮面を外せ――恐れずとも〈無貌なる者〉はここにはいない、その顔を欲するのは我らだけだ」
兵団も警備隊も、自分を本気で探しているわけではないとエゲリアは知っていた。彼らが求めている物もだ。
「あいにく急いでいるのだ、手っ取り早く済ませるというのはどうだ?」そう言いながら、エゲリアは衛兵と握手をした。相手は「行け」と素通りさせた。
「帝国の作法は楽で助かるよ、とっとと金を掴ませればよいだけの話だからな。これからわたしが赴くバカンでは、賄賂に関して渡す方も受け取る方も、その立場と状況によって驚くべき多彩なる作法が存在するのだ。袖の下の額よりも、それらの儀礼をどれほど熟知しているかが重要だということだ」
エゲリアはこれからの旅路について説明する。オアシスを出て街道を東に進めば、竜の化石が横たわっている岩山がある。その頭蓋骨の中に西方への転移門がある。砂漠を進んでも構わないが、地下迷宮が街道と並行して伸びており、難易度は野外よりそちらの方が低い。魔物が出たらすべて自分が始末するし、魔石も素材もガヴィンが取ればよいとエゲリアは請け負った。
「出発は明日の朝にしよう。今日はどこぞの宿で、その魔剣を改めさせてくれ」
宿に入ると日が落ち、開け放たれた窓から、裏通りで詩人が奏でる弦楽器の音色が聞こえてくる。テーブルの上に置かれたラップローヴに触れ、仮面を外したエゲリアの表情が歪んだ。しばらく黙った彼女は、
「大した代物だ。少々気分が悪くなった。目に余るし、手に余る」
独り言のようにそう呟いてから、ガヴィンを見て、
「そなたはバカンへ転移したと言っていたな。それから、すぐにこちらに戻ったのだな?」
翌日には再び転移した、と答えると、
「妙なものが見えた、剣に込められている記憶だ――力があったり、古い魔剣にはよくあることだが。ガヴィン、そなたがバカンで迷宮守りとして活動している光景だ」
そんな経験はないはずだ、と答えるとエゲリアも、
「そうだろうな。そなたからするバカンのにおいは、ごく短期間だけのものだ。となると、この剣が入口になっているのだろう。異なる世界の、入口にな。そなたが帝国ではなくバカンに生まれ、迷宮守りとして生きている世界が存在するのだ。そなたが経験したバカンへの転移は、その影響で発生したのだろう」




