第29話 烏合衆への加入者、エゲリア
「言っておくが、わたしは無断で抜けるというわけではない。〈烏〉と兵団の間で話は付いているし、穴埋めにたっぷり支払われているのだ」
「なら指名手配なんてしなくていいんじゃないの?」
「今回はそうではないが、〈烏〉は何の通告も交渉もなく引き抜く、悪辣なる手法を取ることが多い。帝国にも恨みを持つ国や集団は数多い、烏合衆に与したとなれば、〈竜の兵団〉の評判に傷が付く――気にするほどの評判もないのだが――それ故に、脱走兵が出た、貪婪なるブラニアの手先が触手を伸ばした、と喧伝することをキンヴァルフの方から提案したのだ。悪名という黒い翼も、烏合衆にとっては名声だからな。それと、わたしへの入団テストという意味もある。無事に彼らが本拠地、王都ブランハイムの〈烏の翼〉にたどり着けるかどうか、のな。さあ、行こうではないか」
たまたま目についた強そうな獣人と屍術師を、エゲリアは勝手に同行者に選んだらしかった。
「勘弁してよ、あたしは灼熱の砂漠を越えてようやくこのオアシスにたどり着いたんだ。付き合わせるってんならガヴィンだけにしとくれ」
「そうか。わたしにとっては単独だろうとバカンまで辿り着けるが、一人旅より道連れがいた方が楽しい。そなたらにとっては無償で強力な護衛を得られる、またとない好機なのだがな」
ありがたい申し出だが、自分はこれから東へ向かう、バカンなら逆方向だ――ガヴィンがそう言うと、
「いや、そうでもない。わたしは転移門を用いるつもりだったからな。どこにあるかは概ね把握している――東へだろうと同行しようではないか。さらにだ、そなたが所持するその魔剣。その秘められた力を、わたしは解放することができると言ったらどうだ?」
ガヴィンはこの一言に興味を覚え、分かった、と答える。
「よし……まあ、急ぐ旅でもない、ゆっくりと行こうではないか。申し訳程度に、奴らから身を隠しながらな」
手配書を配る傭兵たちを指しながらエゲリアがそう言う。じゃあ頑張ってね、と手を振りながら酒を呷るドローレスに別れを告げて、ガヴィンたちは路地に入り込む。
「時にガヴィン、そなたは帝国人であろうが、バカンへ行ったことがあるのではないか? ごく短い間だけだろうが」
確かに、シヴ=イルヴァへ転移したことがあるが、なぜ分かったのか、と尋ねると、
「においが混じっていた、〈烏〉たちと同じ魔力のにおいだ。どの土地だろうと、固有の魔力がある。それらは繋ぎ合わされた、異なる世界の断片だからな。一目瞭然だ」
烏合衆は多くの集団から人員を引き抜いているそうだが、これまで、先ほど話してくれた悪名のせいで、どこかと争いになったことはないのか、とガヴィンは聞いた。
「もちろんある、ブラニアではなく戦神エギラの信奉者と錯覚するくらいには各方面とやり合っている。なにしろ、あらゆる集団に対し勧誘を行っている。帝国じゅうの傭兵団や盗賊団に暗殺団、帝国軍や九大家、貴族や皇族すら加入させ、大規模な戦になったこともある。負けようと莫大な賠償金でかたをつけるだけの話だ」




