第28話 脱走兵
翌日、夜明け前にはオアシスに到着した。無事とは言い難い。ゼノビアはげらげらと笑い転げている。盗賊団を手玉に取るという彼女の目的が達せられたからではなく、怪我の痛みを消すために服用した水薬の副作用である。
砂漠のただ中、その宿場町の周辺のみが森林に覆われ、湖は澄んだ水を湛えていた。橋を渡り、湖上に聳える城塞都市に到達すると、ヌミトルはゼノビアを治療院に連れて行き、他のメンバーは早々に宿に入り込む。風生まれの楽士はいつしか消えていた。
ガヴィンは昼前に目を覚まし、表に出て行った。街中にも水路が引かれ、木々の葉が屋根のように茂っている。目の前の屋台でドローレスが酒を飲んでいた。
「道中は見苦しいものをお見せした。アンデッドになるっていうのがどういうことか、分かってもらえたかと思う」
夜だけ行動するという生活は考えないのか? と尋ねると、
「微妙なところなんだ。もう少し苦しいならそうしたけど、我慢できないほどの苦痛じゃあないもんでね。まあ、無事にたどり着いたんだ、ガヴィンも飲んどくれ」
杯を打ち合わせた所で、野太い声が通りの反対側から聞こえて来た。見ると、臙脂色のマントを纏った戦士たちが、指名手配犯の探索をしており、情報提供者には報酬が配られる、という告知をしていた。
「ありゃ〈眠らぬ竜の兵団〉だ。〈悪童〉や〈不死兵団〉とかの傭兵団よりも――いや、旧帝国よりも歴史の古い奴らだよ」
彼らはかつて旅人の神マルゴルに導かれ、〈船〉に乗って異邦より訪れたのだという。旧帝国の始祖ヌミトル大帝をはじめ、歴史上さまざまな英雄に協力し、時に団員として在籍させたという。彼らが今捜索しているのは、脱走兵だ。
「〈烏合衆〉からの引き抜きか、キンヴァルフ総帥と通じ、高額の報奨金と引き換えに無断で移籍するつもりだってさ」配布されている手配書を読みながらドローレスが呟く。
烏合衆はバカン王国の傭兵団であり、金ずくであらゆる集団から優秀な人員を引き抜くことで知られる。帝国においてもその悪名は轟いている。
「〈眠らぬ竜の兵団〉からは歴史上相当な数の団員がバカンに渡ってるだろうね」
「そうであろうな、もっともそれはどの傭兵団においても言えることだが」そう言いながら、いきなりドローレスの隣に鳥のような仮面を付けた女性が座って来た。
「誰だいあんた。施しでも欲しいってか」
「わたしは物乞いではない。我が名はエゲリア、〈眠らぬ竜の兵団〉の元団員、そこに書かれている脱走兵だ」
手配書には彼女の素顔であろう、油断ならない雰囲気の戦士の肖像が描かれている。疑うなら後で顔を見せてやる、と不敵に言ってのけた彼女に、ドローレスは訝し気な視線を送り、
「こんなところにいていいのかい、あたしらが賞金目当てに、とっ捕まえて突き出すとは思わないの?」
仮面越しにエゲリアは笑み、「その程度のはした金のために、キンヴァルフが引き抜くほどの強者に挑むというのか? その気ならやってみるがいい、屍術師よ」




