第27話 オアシスへの旅
砂漠に出るなりドローレスは苦しそうに呻いている。〈雨乞い師〉が熱を和らげる護符を使って結界を張ったのだが、それでもアンデッドである彼女には太陽の魔力がダメージを与えている。灰になったり皮膚が焼けたりするようなことはなかったが、精神的に辛そうだ。ぶつぶつと最後尾でスゥレへの祈りを呟き続けている。
対照的にゼノビアはにやにやと笑っている。彼女は厳密には人族ではなく、迷宮人だ。世界各地で、何らかの役割を持ち迷宮から生まれる種族である。ヴェントでは屈強な騎士団として戦を仕掛け、バカンでは武装したならず者として暗黒街を騒がせ、グリモでは神出鬼没の〈怪人〉として、探偵たちと蒸気に煙る都市での戦いを繰り広げる。帝国で脅威となる最も多い役割は、盗賊団や略奪者だ。
ゼノビアは内陸から西海岸まで伸びる〈大塩路〉を縄張りとする、金角杯騎士団の一員として砂漠で生み出された。その後、自我を得て独立し、迷宮守りとして都市をさまよっているが、本質を忘れてはいない。金角杯騎士団は盗賊から旅人や隊商を護衛するという名目でゆすりを働き、時には公然と略奪を行った。さすがに今は民間人相手の狼藉に出るつもりはないようだが、このアダン街道には隊商に偽装した、迷宮人の盗賊団が出現する。彼らを倒してその積荷を奪い、さらには賞金も頂戴する――ゼノビアはそれを夢想して浮かれているのだった。
しかし、隊商には遭遇せず、代わりに単独や数人の盗賊、狼、大型の蟲などが襲い掛かって来た。ベイリンの迷宮よりは慎重に、申し訳程度の連携を取りながら相手をした。ヌミトルが、死体に群がる奴らがすぐ寄って来るからと言って、魔石とごく少ない素材を手早く剥ぎ取り、名残惜しそうにその場を離れる。
同行していた風生まれが、魔物の魂魄が迷わぬようにと笛で物悲しい鎮魂歌を奏でた。旅の最後までこの人物の名前は明らかにならなかった。ともすれば、彼自身が砂漠で迷った旅人の霊なのかも知れないと後にガヴィンは考えた。
戦闘で最も頼りになったのはドローレスだった。砂漠という地そのものが魂魄に与える苦痛に耐えながら、青白い霊炎を投擲したり、砂に埋もれていた骨を蘇らせて使役したりといった活躍を見せた。彼女の使う魔法はもちろん屍術だが、真昼の砂漠でスゥレの烈日に晒されながら滞りなく術式を構築する様は、術師として高いレベルに達していることを意味していた。




