第22話 翻弄
麻痺を和らげる効果の首飾りを、貯金を用いて呪術師ギルドから購入した。上位魔術を完全に防ぐことは叶わないが、闘技窖のオクルスに使われた、動きを鈍らせる程度の術なら、ほぼ無効化できるという。
ガヴィンはキーラに挑むために、再び迷宮へ向かった。彼女は数度挑めば誰でも相手をしてもらえるし、傷を負わせても何事もなく復活するという。勝利したのなら、何らかの魔法具が進呈される。首飾りを購入した埋め合わせにでもなれば儲けものだ。
岩壁に囲まれた底で、観客の声援に答えて主催者が自ら姿を現した。浅黒い肌と銀の髪、そして獅子の鉄仮面。両手に短剣を携え、キーラが叫ぶ。
「ガヴィン・ラウ・ワーディ! 猛き獣人! 今宵はこの窖にて、花と散れ!」
歓声の響く中、ガヴィンは無言で魔剣を構える。
最初に動いたのはキーラだった。なんの予備動作もなく前方に跳躍し、双剣を振るう。ガヴィンは初め、真正面から切り伏せるつもりだったが、視界の端にあるものが映り、身をかわした。岩壁に穿たれた観客席に、吹き矢を構える人物がいたのだ――矢に危険な毒でも塗られていたら命取りだ。
配布資料にも、対戦相手に途中で増援が加わることがあり客が飛び道具で助力する場合もある、と書かれていたし、正々堂々の一対一などという謳い文句は、一度も耳にしていなかった。
ガヴィンは素早く動き続け、観客とキーラの攻撃を回避しなければならなかった。獣人の体力によって、すぐに力尽きることはなかったが、キーラも軽業師じみた俊敏さで、こちらを翻弄する。さらに、ガヴィンの手強さを認めたためか、駄目押しとばかりに追加の闘志が壁の穴から投入された。
それは二頭の巨大な虎だった。キーラには目もくれず、一直線にガヴィンへ殺到する。打破するにはどうすればよいか、とっさに浮かんだのは、この陥穽において自らが相手を逆に翻弄することだった。
片方の虎にラップローヴの一撃が命中すると、恐るべき肉斬り巨人へと変貌した。この、リウィア鐘楼の地下に潜んでいた魔物は、大鉈を掲げ、呼び出したガヴィン以外のすべてを戦慄させる雄たけびを上げた。さすがに怯んだ目の前の虎を、肉斬り巨人は無慈悲に両断した。肉と血飛沫が晴れる前に、キーラは眼前に迫る魔剣士を垣間見て、それが最期の光景となった。
無事に勝利を収めたかに思えたが、巨人はラップローヴにより制御下に置かれているわけではなかった。猛り狂うこの魔物をヒキガエルに変化させてようやく、ガヴィンは勝者として一息つけたのだった。




