第21話 キーラの闘技窖
迷宮守りには様々な稼ぎ方があるが、代表的なのはガヴィンのように迷宮へ潜り、魔物の素材や魔石、獲得した物資を売って生活費を得るスタイルだ。あるいは、誰かがそうする際に荷物持ちや護衛のために雇われたり、自分では戦わずに死体漁りを行う者もいる。
新たな迷宮に赴く際、慎重な者は公社から配布資料を入手し目を通すか、もしくは、経験者に一杯奢って話を聞く――後者の場合は無論、でたらめな情報を掴まされないように判断する能力が必要になって来る。ガヴィンはその両方を実践し、さらに斬った相手からラップローヴによって得られる情報をも活用した。
現在ガヴィンが潜っているのは〈キーラの闘技窖〉という迷宮だ。通路で接続されたいくつもの狭い縦穴で、岩に囲まれた底では迷宮そのものが挑戦者を用意する。
「さあ、今日もおでましだ! 獣人の魔剣士、ガヴィン・ラウ・ワーディ! こいつを止められる挑戦者はいるのか!」
主催者キーラの声が上から響き、ならず者たちが観客席から声援やヤジを飛ばす。彼らはベイリンの民ではなく、この闘技窖が呼んだ〈迷宮人〉だ。
「また来やがったな、デカブツ!」
「てめえに全財産突っ込んでんだ、死んでも喰らいつけよ!」
「負けろォガヴィン! 貴様のはらわたが飛び散るのを見せてくれェ!」
これまでは迷宮人の剣闘士や猟犬などと戦ってきたが、その日は初めて見る魔物だった。宙に浮く大ぶりなカボチャほどの、一つの目だけの怪物だ。
ガヴィンは初めての危機に陥った――怪物の目から照射される魔術を浴びると、肉体が思うように動かなくなった。だが、二つの幸運があった。麻痺の術は完全に停止させるには至らなかったことと、魔物の攻撃手段が突進しての体当たりであったことだ。どうにか構えたラップローヴの刃先が命中し、目玉の魔物はヒキガエルに変化した。
あっさりと勝負がついたことで観客は不満げだったが、ガヴィンは危機感を強めた。配布資料には「場合によっては未知の魔物が出現する場合あり」と記載されていたことを、少々軽く見ていたかもしれない。呪術師ギルドから、麻痺に対する備えを入手しておくべきだろう。
「あの目玉野郎を倒すとはお見事! ただ今回は、少々物足りなかったなぁ。次回はこのキーラが自ら、ガヴィンの相手を務めよう」
主催者の声と花弁が上から降って来る中、獣人の魔剣士は、麻痺が抜けきるまで穴の底で休んだのち帰路に付いた。
魔物について公社へ報告し、いささかの報酬を入手できた。そいつは見た目通り〈オクルス〉――目玉――と呼ばれる怪物で、上位のものになると完全に肉体の自由を奪われ、場合によっては心肺停止にまで至るという。攻撃手段にしても、体当たりではなく装備や肉体を溶かす魔術を行使する、恐ろしい個体も存在するということだ。ガヴィンは己の無事を神々に感謝するのだった。




