第19話 呪われた宝冠
自分はベイリンへ来るのは初めてであり、なんとも言えない。そのドアと中の呪具が、新たに世界の外から追加されたというのだろうか。
「突飛とお思いでしょうか? わたしも少しばかりそう思います。いずれにしろ調べてみれば分かることです。ギルドより許可は得ました」
鍵を手にしてカプリムルグスは護衛と共に宿を出る。ガヴィンも後に続き、本当に危険はないのか、と尋ねる。もちろんこの蒐集家には何らの影響も与えないだろうが、都市そのものや住民への危険性という意味だ。
「今のところ、強い呪詛は感じません。無論、抗呪の障壁を張った上で調査いたします。しかし、そもそもわたしが失敗し、都市や世界へ重篤な被害が出るのであれば、今の時点でどこぞの予見者が当局の許可証を携えて知らせに来ているはずです。少なくとも〈天啓機関〉が、わたしをアウルの監獄迷宮に誘う気配はないようだ」
扉の前に移動すると、ちょっとした人だかりができていた。ローブを纏った魔術師のような人々や、仮面や布で顔を隠した迷宮守り、近所の酔客などがいた。
「カプリムルグス、また呪具を独り占めする気かよ、その蒐集欲に際限はないな!」
「この伝統的な封印をついに解く日が来るとは長生きはするもんじゃのう」
「いや、こんな扉あったか? 思い出すにはもっと椰子酒が必要だ」
この見物客が差し迫った危険がないという証左、とでも言うかのようにカプリムルグスはガヴィンを見やり、人々を掻き分けてドアを開錠した。
中はごく狭い一室で、大理石の台座に宝冠が一つ置かれていた。蒐集家はゆっくりとそれを見下ろし、手をかざした。
「なるほど、呪具としては大して珍しい品というわけでもありませんね。どうやら、不用意に触れた者を異なる空間へ転移させるタイプです。魔物か罠でも待っているのではないでしょうか」
「よし、おれが見てきてやるぜ」と言いながら、一人の屈強な戦士が歩み出た。誰が止めるでもなく、彼が宝冠に触れると、その姿は掻き消え、三分ほどで戻って来た。
「大した相手じゃなかった。どっかの地下墓地みたいな部屋で、剣を手にした動く藁人形と戦わされただけだ。相手は一体だけで、動きも大して素早いわけじゃない。ぶった斬ったらすぐに戻れたし、罠ってほどでもないが、ちょいとした戦闘訓練にはいいかもな」
「やはり平凡な品のようです。このような一室をわざわざ用意するほどの代物ではありませんね」
カプリムルグスが宝冠を手にして部屋を出てきた。彼が傍を通りかかったとき、冠に付いているエメラルドが妖しく光り、一瞬後には手を触れてもいないのにガヴィンは地下墓地へ転移させられていた。