第18話 領都ベイリン
翌日、早めの朝食を済ませ、日の出とともに出発した。護衛達は「眠りを貯めておける」魔法具によって徹夜したそうだ。昼前には台形型の巨大な一枚岩が見えて来た――領都ベイリンだ。
岩の門をくぐり入城すると、吹き抜けの広場だった。頭上からは陽光がさんさんと注ぎ、眼前には巨大な女神像が聳えている。同じ太陽神でも男神スゥレではなく、この地では珍しいダグローラのものだ。
「聖地ロドーは、ここからずっと東のスゥレ僧院領に位置しています。旅費や護衛を雇う資金を、この街で稼ぐとよいでしょう。ミスタ・ワーディならすぐに一財産築けるはずです。今後、もしも何か珍しい呪具を手に入れたら、最寄りの呪術師ギルドにいらして下さい、わたしが割高で買い取りますよ」
そうして別れの挨拶を口にしかけたカプリムルグスだったが、その視線が相対するガヴィンの背後の、どこか一点に釘付けになっていた。振り返ってみると、岩壁に大仰な錠前の付けられた扉があった。
「呪具の気配がする。妙なことだ。先月来た時には、このような扉はなかった」
呪術師は護衛達に確かめるが、彼らも前に来たときはこんなものはなかった気がする、と答える。もっとも広場の隅にある扉など見落としたのかも知れないが、と彼らは付け加えるが、カプリムルグスは黙考し、ここの呪術師ギルドに問い合わせる、と言った。ガヴィンに、もし急ぎでなければしばらく近くの宿で休んでいて欲しい、と宿泊費を渡して護衛達とともに去って行った。
宿屋で昼食を取り、店主に鍵のかかった扉のことを尋ねるが、ダグローラ広場にそんなものがあったかどうか、という答え。ほどなくしてカプリムルグスがやってきた。
「結論から申しますと、あの扉の中にはやはり呪具が保管されているそうです、都市当局の管理下で」
この都市が管理しているのか、呪術師ギルドの方ではなく? と尋ねると彼は頷き、
「妙なことになっています。呪具は旧帝国時代からあそこにあり、危険だから手を出してはいけないと伝わっているために、これまで都市当局もギルドも手を出さなかったとのことです。それが実際に危険な代物なら、歴史上どこかのタイミングで、必ずギルドは対処したでしょうし、なにより封印が簡単すぎる。その言い伝えというものが間違っているか――」
あの扉が実は完璧な守りを提供する、旧帝国時代の逸品なのか?
「そんな便利なものがあれば、街中のドアをそれと交換したい所ですが――ミスタ・ワーディ、あなたも妙なドアに関する体験はしたばかりでしたね? シヴ=イルヴァからの転移。それと同じことが発生しているのかも知れませんよ。異なる都市ではなく、異なる世界への転移がね。我らは以前とは異なるベイリンへ到達したのではありませんか。もしくは、あの妙な扉が異世界からこちらへやって来た」