最終話 Laprov
その後シエラがキャスクボトムの地に辿り着くことができたのかは不明であり、あるいはその目的地も、アルバトロスなる敵対者も、彼女の頭の中にしかないことかも知れなかったが、それは大して重要ではなかった。
ラップローヴも散逸したかに思え、長い間、次なる使い手は見つからなかった。あとからこの魔剣の歴史を調べようとした者は、この時期を大空白期と呼び、何人もの研究者を狂わせたその無為さは後年魔物のごとく恐れられた。
分かっているのは、シエラの後に〈さまよえる帝国人〉という正体不明の継承者がどうやらいたらしいということ、その後に〈検察官オリン〉なる人間が、モーンガルド南部からソラーリオにて活躍したらしいという数少ない資料が現存する。
オリンがラップローヴを所有していたらしい時期に、モーンガルドを襲った巨大な魔物と黒い〈猟鎧〉については、〈語り手〉がシエラに話した物語に端を発するものだ、という点については研究者間で概ね一致を得ているし、同時期にガヴィンに似た人物が目撃された記録も併せて、継承者オリンの実在は疑いようがない。
オリンの後も、様々な人物がこの魔剣を手にし、それぞれの目的のためにエノーウェンという広大な迷宮を彷徨った。その証に、赤い髪を割れた兜から覗かせた、巨大なる異世界の廃英傑を目撃したという情報は絶えない。
そして、どこか未来のある地点、一人の迷宮守りが、倒すべき相手と対峙していた。魔剣ラップローヴは、この相手に勝つための強者を育成する、そのために、迷宮の世界エノーウェンを探索させたのだ。
所有者は本を手にしているが、その表紙には今や何も描かれていない。その代わりに眼前に、赤い竜がいる。
竜は、物語を望んでいたのだ。自分という物語の終端に書き加えられる英雄との戦いを。それは今まさに、始まろうとしている。
英雄の手の中には本ではなく剣が既に握られている。どこかでこの物語を紡ぐ〈語り手〉たちがその口を開き、この戦いを描くキャンバスに筆が触れ、吟遊詩人の弦楽器が鳴らされ、ページにインクが滴り、舞台の幕が上がる。
これまでにこの魔剣を手にした者、これに斬られた者、その全てが見守る中、竜と最後の所有者の戦いが始まった。
DUNGEONERS:LIFEPATH 了