第16話 呪具蒐集家、カプリムルグス
翌朝、ウラカの口利きでやって来たのは、極めて不気味な仮面を付けた人物だった。ドルススで会った〈悪鬼のヌミトル〉も恐ろし気な甲冑を纏っていたが、それ以上だ――牙をむき出した猿ともワニともつかぬ怪物を模した、黒いその仮面の恐ろしさに反し、彼は丁寧な口調で話した。
「ミスタ・ワーディ、わたしがウラカより紹介された呪術師、カプリムルグスです。この度は隣の都市へ同道させていただく運びとなりました。何卒よろしく」
部屋を出て階段を下り、市場の階層に移動した。迷宮守りが何人もうろついており、彼らも仮面を被っている。カプリムルグスのものほどではないが恐ろしい怪物を模したものも多く、彼の凶悪さもそこまで目立ちはしない。
ここは〈赤蜘蛛邸宅〉のように都市の中に迷宮があるのではなく、迷宮の中に居住区や市場があると言えた。住民は勝手に空き部屋に住み着いたり宿泊したりして、階下の魔物の現れる穴蔵へ降りて行き、必要な物資はこの市場で買い求める。
二人は一角牛の引く牛車に乗り、砂漠へと旅立った。都市の内部と同じくこの車内にも結界が張られ、冷涼な空気が留まっている。
カプリムルグスはウラカと同じく、呪術師ギルドの一員だ。不法に呪術を用いる呪縛者の捕縛・討伐や解呪を生業とする者たちの寄り合いであり、六王国では朔月騎士団がその役目を負う。自らの肉体に呪詛を組み込み、呪いをもって呪いを祓う朔月騎士とは違い、帝国の呪術師は最初から高い抵抗力を持ち、己が力で呪詛を消し去る。
カプリムルグスも生まれつき、呪詛を無効化するどころか、蒐集品のように保有することのできる体質の持ち主だった。彼が身に付けている武具は、その仮面も含めて呪具だという。例えば、右手の人差し指に嵌めているのは――ほぼ全ての指に、仮面と同じく忌まわしいデザインの指輪があった――傷を即座に治すが、痛みが残り続けるという品だ。彼は各地に赴いては呪具を求めていた。
「ミスタ・ワーディがもしこの先、九大迷宮、あるいはヒューリズ産の呪具を手にした暁には、なんとしてでもわたしに売っていただきたい。言い値で買い取りますゆえ」
穏やかな彼の口調がにわかに熱を帯び、打ち消すように「大抵は贋物でしょうが」と付け加える。ヒューリズは、六王国のあるイーグロン大陸の南に位置する孤立した大陸で、極めて危険な呪詛と疫病に満ちた場所だ。そこからごくまれにだが、転移した品が迷宮で発見されることがあるらしい。そんなものはカプリムルグスにとっては望みの品であっても、他の迷宮守りにとっては災厄でしかないだろう。ガヴィンとしては、決して自分が出会わないことを願うしかなかった。