第156話 ロック鳥
アヴァ・マコネルと名乗った転移被害者とともに、安い酔い止め薬と飲料水を買った。彼女とともに飛んできた迷宮守りたちは、市場の裏道にいた。彼らは明確に顔色が悪かったが、薬を飲ませると多少はましになったようだ。
しかしアヴァがシエラから聞いた説明をそのまますると、一同は再度動揺した。
「シエラ、あんたが護衛してくれたりしねぇのか?」
「何言ってんだよアヴァ、風生まれなんざ雇ってもすぐどっか行っちまうのがオチだ」
自分は一度契約を結んだら、軽々に投げ出したりはしない。だが、今は宿敵アルバトロスとの戦いと、キャスクボトムへの旅という重要な用の途中のため、協力はできない、とシエラは丁寧に述べた。
「こりゃ驚いた! 風生まれにしちゃ、ずいぶんしっかりした小娘じゃねぇか! そういうことなら分かった、よし、お前ら知恵を出し合うぞ」
酔っ払いのドヴェルがそう提案し、一同が話し合った結果、有り金を合わせて安い傭兵を雇うというアイデアで行くことにした。
ちょうど近くを、白いサーコートを纏った傭兵団が通りかかる。そいつらは、ロックモートという迷宮都市を本拠地とする〈白き翼の旅団〉の小隊だった。
隊長らしき人物に迷宮守りたちが、リニィまでの護衛を頼むと、傭兵たちは怪訝そうな顔を浮かべた。
「おたくらの言うことは分かった、しかし、本当にオレたちで良いのか? 裏切ったり逃亡したりってことはないが、急にやる気をなくして手を抜くということは良くあるんだ。そんな奴らを雇いたいだなんて思うのか?」
そんなことを自分から言う傭兵なんて初めて見るので、迷宮守りたちは唖然とした。
「ああ、しかしオレたちには鳥がいる。鳥でおたくらを運べるところまで運んでやれるな。さすがに空中でやる気をなくしたからって、いきなり放り出したりはしないからな。うまくすればモーンガルドとの国境付近までは行けるかも知れない。ただ、あんまし高くは飛べないからな、空には空の魔物がいて、陸の奴よりかなり恐ろしいもんだ」
隊長が指笛を鳴らすと、空から大きな白い鳥が数匹飛来した。彼らの象徴とも言うべきロック鳥だ。ロックモートでは既に存在しないこの魔物が、遠征部隊には付き従っているというのは妙な話だ。
ともかくアヴァ・マコネルと仲間たちはどうやら、少しずつモーンガルドを目指す目処が立ったようだ。