第152話 目指すべき地
レオニダスに自分の過去を話し、興味深いと言われたが、それは〈語り手〉の指導のせいかも知れないと思い、シエラは少し複雑な気分になった。
続けざまにシエラは自分の過去のラップローヴの使い手、ガヴィン・ラウ・ワーディや第八聖堂のエルネスティーネ、ブロウや〈名も無き者〉についてざっくりと語った。
「今、オレは一つ思ったことがある。あんたと、その過去にいた奴らとの間には違いがあるようだってことさ。つまり目的があるか無いかだ。ガヴィンは自分の過去を探すために九大迷宮を目指した。エルナは復讐を成し遂げようと標的を探した。ブロウはフォルディアを脱出してアスラの血を求めた。〈名も無き者〉は――バブラスとかいう奴を倒そうとしていた。一方、あんたは特に目的とかはないのか? 〈語り手〉の話を受け継ぐのも大して乗り気じゃなかったようだし、ニムロドっていう朔月の騎士が呪詛で〈語り手〉を排除したのも、あんたがその継承作業を望んでいなかったためじゃねぇのか?
いや、それを非難するつもりはねぇが、どうやらラップローヴは持ち主に、何らかの目的を達成させて、一つ上の――レベルに到達する、とでも言えばいいのか? そうすることを望んでるみたいじゃねぇか。オレは今、あんたの話を聞いただけだし、正確なことは言えねえけど。何でもいいから、目的を設定すべきじゃねぇか、と思った次第だ」
それについてシエラが黙考していると、近くの路地からイネが、何らかの獣と掴み合った状態で転がり込んできて、そのまま民家の窓を突き破って消えた。あれも何番目かの姉妹の仇なのだと思われた。
シエラは、確かにレオニダスの言う通りだと思ったので、目標を決めた。それは、〈キャスクボトム〉を目指すことだった。
「キャスクボトム……あんたの家名か? それって、故郷に帰るってことか」
レオニダスが聞いたが、シエラは否定する。風生まれは何かに所属するという考えが薄く、共同体や家族に帰属意識を持つこともあまりない。この種族が家名のようなものを名乗っていても、それは父祖の地に由来しているわけではない。
それは、いつか目指すべき場所を指している。シエラの先祖の一人が、風神マルゴルによって見せられた幻視と信じている夢の中で、巨大な大穴とその底に築かれた街を目撃した。その人物はこの地〈キャスクボトム〉がエノーウェンのどこかにあると信じ自分か子孫の誰かが将来辿り着く地点と考え、家名として名乗った。
翌日には忘れられてもおかしくないが、以後何世代にも渡って、キャスクボトムの名は受け継がれてきた。