第151話 放浪者レオニダス
ナグムズ教徒たちはメサ当局から莫大な賠償金を課せられ、十年経っても返済の目処は立っていない。彼らは迷宮守りや傭兵、飲食業や街の便利屋などで稼いでいるが、モーンガルドの労働者よろしく無気力で、フルタイムで働いているわけでもなければ貯金に熱心というわけでもなく、今後も長く借金地獄に苦しむ羽目になりそうだ。
彼らは金で聖人の位やナグムズの祈祷を販売し、あぶく銭を時折稼いでいる。竜の血肉が降り注ぐ市場のはずれで、シエラが出会ったのも教団の最高位聖人〈至高者〉の一人だった。〈銀の黎明〉が崇めた〈ヴァ=マ〉もそうだったが祈祷師たちとその崇拝対象の力は、エノーウェンに遍在する神々のものよりは弱く、歪んでいる。ナグムズの力をそのまま振るうことはできず、一日に数度、血肉を発生させて空腹を満たしたり、盾や武器として行使することがせいぜいのようだった。
「あんたはシエラっつうのか。前に同じような名前の風生まれに会った気がするぜ、そいつはあんたと違ってすげえ喋る奴だった。まあほとんどの風生まれってのがそうだけどな。むしろ、あんたは随分と物静かじゃねぇか? その方が良いけどさ、口は災いのもとだからよ」
そう言った〈至高者〉レオニダスは、しかしなかなかに饒舌だった。彼の装束は、ブラニア教会の高位聖職者が纏っているような、黒と金の刺繍が特徴の仕立ての良いものだ――そこらのナグムズ教徒と違って。
「お察しの通りオレの家は聖職と銀行家のお偉いさんを代々出してる、バカンじゃその二つはおんなじだけどな。金がある場合、しなきゃならねぇことが色々あるが、最も大事なのは使うことだ。この街の哀れな貧乏カルト教団に寄付をくれてやるとか、そこいらの場末のバーで踊り子やピアノ弾きにチップをやるとか……」
レオニダスの本職は学生だった。バカンの誇る教育機関であるエボンウィングから、実地研修の名目で地方へ旅を繰り返し、留年も繰り返しているらしかった。
ナグムズ焼きを食べながら、レオニダスはシエラの話を聞いた。〈語り手〉や復讐者イネなどと出会ったこと、デュルガリアという物語の舞台に引き込まれ、過去に何かを成し遂げた英雄の仲間として扱われ、違和感を覚え、メリッサを連れだした。そして、そもそもこの自分は魔剣ラップローヴの継承者の一人であり、過去の使い手から連続している存在である。ラップローヴを手にする前から自分は存在しているはずだが、その記憶も魔剣が作り出したものであるかも知れない。
レオニダスは、「あんたが何を言ってんのか良く分かんねぇ。だけど、興味深い話だ」と言った。