第15話 三階上のウラカ
カリグラの部屋に戻ると、一人の来客があった。黒髪とオリーブ色の肌をした人間の女性で、〈三階上の姐御〉と呼ばれている呪術師、ウラカと名乗った。その名の通り三階上に住んでいるという。
「あんた、呪いを受けたりしてないかい? それか呪具を手に入れなかったか? そのままじゃ危ないよ、あたしに任せときゃ全部安心さね」
ウラカはしきりに解呪の営業をかけてきた。その剣とか呪われてない? とラップローヴを指差して言う。ナッビがやんわりと止めてもなかなか収まらない。
「すまんなガヴィン、姐御は酔うとこうなっちまうんだ。素面でもそこそこ守銭奴だが、加速する。それこそ地下鉄にでも乗ってバカンにまで行っちまえばいいんだ」
「やめとくれよ、あんな辛気臭い〈朔月〉どものいる地なんて。あいつらに負ける気はしないけどさ」
ウラカの酔いが醒めて来たところで、ガヴィンは自分の身の上を話す。ドルススという国の迷宮で記憶を失った状態で気が付いて、そこである徒党に世話になり師事しようとした所でいきなりバカンに転移した。そこからさらに転移してこの場所にいる。今はロドーに行こうとしているところだ。
「ふうん、シヴ=イルヴァか。その場所の話は聞いたことがあるよ、あたしにも解呪できない円環の呪いに囚われた都市だ」
ウラカはガヴィンが船で目指そうとした地、帝国西端の国パルダリアの出身者だった。彼女は、一度転移に巻き込まれた者は、その原因に関わらず再度転移しやすい体質になるのだと説明する。なんなら呪術師ギルドの専門家を紹介するけど、高いよ、と彼女は言う。もちろんそんな資金はない。
「で、ロドーか。あそこは修行の場だからね、周縁部でもそれなりにしんどいはずさ。ちゃんと準備をしてから行かないと干からびちまうよ。とりあえず、そっち方面に向かうっていう呪術師が明日来るから、そいつと一緒に途中まで行くと良いさ。今夜はここに泊まりなよ」
家主であるカリグラの許可は得なくていいのか、と聞くと、
「あの風来坊は全然戻ってきやしないから、気にしなくていいさね。ここの酒は好きに飲んでいいよ、食いものもそこらにあるのを食べて良いからさ」
それからほどなくしてナッビとウラカは帰宅し、窓の外から二つの月が照らすのを見ながら、ガヴィンは眠りに就いた。