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DUNGEONERS:LIFEPATH  作者: 澁谷晴
5:Thyella Caskbottom
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第141話 かつての仲間

「シエラか。本当に戻って来ていたんだな、コンフルエンスへ」


 声をかける者がいたので振り返る。白く灼けた石畳が延々と続く風景の中、黒い鎧の若い戦士が立っていた。


 あなたは誰か、と尋ねると、彼はため息を吐き、


「その手の悪ふざけが相変わらず好きなのか。それともまさか、迷宮にて記憶喪失にでも陥ったのか?」


 シエラが何も答えずにいると、彼は観念したように、


「カイン・ミッドランド。お前や〈硝子の月の不正規軍グラスムーン・イレギュラーズ〉と共に、あの教団の悪事を暴き、この街を救った迷宮守りだ。どうだ、思い出したか?」


 一切覚えておらず、やはりこれは〈語り手〉が語っている物語の中で、自分はその途中に入り込んだのだろう、とシエラは推察した。


 再び空を流線型の物体が横切る。あれが何なのかとシエラが尋ねると、カインは唸りながら、


「飛行機も忘れたのか? お前はあれに乗って、このデュルガリアへやって来たのだろう。まあ、いずれにしても事実は変わらない。お前がコンフルエンスの英雄の一人だということはな。ライラックやヴァイスにも挨拶に行ったか? 奴らもお前に会いたがっているぞ」


 カインはそう言いながら歩いていく。彼の行く手に、何かが書かれたページの山がそびえている。さっきまでは無かったはずのそれに、カインは無造作に突っ込んでいく。シエラもその後に続いて突入し、異なる場面に移った。


 どうやら少し下らしい階層の、酒場に二人はいた。窓の外には相変わらず鮮やかな蒼穹が見える。凛とした雰囲気のエルフの女性と、悪人面の人間の中年男性がいた。彼らがカインの言うライラックとヴァイス、〈硝子の月の不正規軍〉なる徒党(クラン)の一員なのだろう。


 親し気に話しかけてくる彼らに一切仲間意識を持てないシエラは、これまでにあったことを話して欲しいと言った。エールを片手に、饒舌に二人は英雄譚を語り始めた。〈語り手〉の朗々たる声には劣るが、それは淀みなく紡がれた。


 物語の始まりは、この大陸デュルガリアへ、ゴードン・ノースなる迷宮守りがやって来たことに起因する。彼に対して素性を隠した依頼者が、とある少女の行方を捜して欲しいと頼んだ。依頼者の正体はバカンの外務大臣タレーランであり、少女は魔術によって姿を変えたバカンの王女、リリィ・グレイラークだった。彼女を狙う〈教団〉の使徒シフォンは――


 シエラは登場人物の名が覚えられなくなってきたので、話を聞くのをやめた。


 分かったことは、ひょんなことから迷宮にて出会った探索者たちは手を組み、ゴードンを助け、〈教団〉が呼び出した魔物を退けた、という結末だ。彼らの拠点となった〈硝子の月〉亭は戦いの余波で全壊し、ゴードン・ノースとリリィが飛行機でコンフルエンスを飛び立つところで「前作」は幕を下ろしたらしい。


 シエラの役どころは、謎めいていて実は仲間想いで、密かに敵の作戦を妨害したり味方を影ながら助けたりする名脇役らしかった。もちろん、そんな記憶は一切ないので、話を全て聞き流し、時折空を横切る飛行機だけを見ていた。

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