第13話 リウィア鐘楼
そこはごく狭い一室で、安い集合住宅のような雰囲気だった。ベッドとテーブルがあり、その上には酒瓶がいくつも転がっている。地下鉄の駅がどうしてこのようなところに繋がっていたのだろうか?
ガヴィンが入って来たのとは別の扉がノックもなく開き、誰かが入って来た。
「おう、久々にいい酒を持って来たぜ。あんた一人だけか?」
黒い髭を伸ばしたドヴェルが、酒瓶を掲げて言った。ガヴィンは、ここはどこかと尋ねる。
「どこって、リウィア鐘楼の安普請、我らが主催者カリグラの家だ。あんたも誰かが持ってくるただ酒目当てで潜り込んだんだろ、獣人の兄さんよ」
自分はシヴ=イルヴァから地下鉄でここに来た、駅から出ようとしたらここにいたのだ、とガヴィンが言うと、相手は笑いながら杯を用意し、
「分かった分かった、だいぶ出来上がってるんだな、だが安いのばっかじゃ悪酔いしちまうぜ」
否定しようとしたが、〈盗賊鴎〉亭にてフランシスのおごりで飲んだのは間違いないので、否定せずにワインをいただいた。壁を見ても、ガヴィンの入って来た入り口は既にない。ここは帝国なのか、と聞くと、
「そうさ、偉大なるコスの帝国よ。肴が欲しいな、確か〈三階上の姐御〉がこの前その辺に手土産を――」
ドヴェルは部屋の隅にあった壺を探り、中から干し肉を取り出してきた。
「兄さん、もしかしてそこそこできる迷宮守りなのか? なにせ獣人だし、よさそうな魔剣も持ってるじゃないか」
中級一等だ、とガヴィンは、それがどの程度かも分からずに言う。
「あの七面倒くさい試験を受けるとは、少なくともあんたは大層真面目らしいな。あんたの栄光に乾杯だ」
どうも酒を飲んでばかりだな、とガヴィンは思う。しかし彼の中に残っていた迷宮守りとしての記憶では、同業者はだいたいそうしていたし、ドルススの公社でも朝から飲んでいる者が大勢いた。恐らくこれが正解なのだろう。
「よし、今日はこの程度にしておくか。今から迷宮だからな。兄さん、よかったら一緒に来るかね?」
この程度どころではない量を飲み――ドヴェルにとっては適量なのだろうが――相手は立ち上がった。この近くに迷宮があるのか、と尋ねると、
「そりゃ、この建物の下がそのまま迷宮だからな。あんたは強そうだから、少しばかり大物に挑んでみるか?」