第127話 血を濯ぐ者、レジーナ
翌日、クラッスラは再びシャロウシープのもとを訪れた。迷宮公社にいた人々は、彼に対し見向きもしなかった。最高権力者の手の者が恐ろしく、努めて見ないようにしているか、彼が混乱を避けるために何らかの魔術を行使しているのかは定かではなかった。
「貴君への疑いは晴れたが、何者かが当該領域への攻撃をけしかける恐れが未だあるので、護衛という名目でしばらく監視させてもらいたい。もちろん、既に本官には何らの強制執行権もないので、貴君の許可が得られればの話だが」
別に構わない、というと、彼は腕組みをして少し離れた場所からこちらを観察し始めた。アレッシアがもう一人増えたようなものだと思えば、心理的負担はないに等しい。
〈膿み傷〉との合同作戦で多少懐が温かいので、徒党の団員たちは朝から飲んでいる。泥酔者が昼前には床に転がり始めた。クラッスラの所へ行って、世間話をする。烏合衆と血濯ぎはどういう関係なのか? と前から気になっていたことを尋ねた。
「我らと〈烏〉は提携関係にあるし、団員が移動することもある。こちらは最高評議会直属の部隊だが、向こうは傭兵団だ、依頼者にのみ従う」
例えば利益相反についてはどうなっている? 烏合衆は金次第では、評議会やブラニア教会の損になることも引き受けるのか。
「詳しいことは広報担当に問い合わせる必要があるが、彼らは非常に長期的にものを見るのだ。神の視点とでも言おうか。短期的には自分たちや〈血濯ぎ〉、バカン王国全体に不利益に見えても、長期的な視点では違ったりする。それを含めて、断る場合もあるし、金次第では無理を聞いてくれたりもする。結論から言えば、最終的な判断基準はキンヴァルフ総帥とブラニアのみぞ知る、といったところだ」
血濯ぎといえばレジーナ・ブレイクだが、彼女は何世紀も前から生きているとか、転生を繰り返しているという噂がある。それは真実なのか?
「それは非常によく質問されることだ。かつて旧帝国からこの地へ移住した豪商たちが出合ったという不吉な、川で血の付いた武具を洗う女――ブラニアの使徒を名乗って、最初の〈血濯ぎ〉となった者のことだな。
結論から言えば、本官はそういう人物が実在したかどうかは知らない。我が国のあらゆる団体は印象操作、宣伝活動、プロパガンダを好むし、我らも例外ではない。確かにレジーナという凄腕の兵士が暗躍し、強大な魔物を打ち倒した、というニュースが時折喧伝されるが、本官は会ったことはない。
実在する不死者なのかも知れないし、最も優れた女兵士が、伝説の再来という意味で襲名する称号なのかも知れない。そういった推察以外に、こちらが言えることはない」