第125話 〈竜獄観測所〉掃討作戦
頭目レナーデ以下〈膿み傷〉の構成員全てが、上部に円盤型弾倉の取り付けられた銃を手にしている。それは連射が可能な機関銃で、民間人の所持は許可されていない兵器だった。シャロウシープの率いる〈名も無き徒党〉が不安に思うのは、彼らがそれを手にしていることにも増して、明らかに使い慣れておらず、そわそわと落ち着きなさげにしている点だった。
この日のために闇市場で買い込んだ、おろしたての新兵器。そいつで魔物たちを掃討するついでに、のこのこと同伴した三文迷宮守りどもも抹殺して身ぐるみ剥がす。最初からそんな悪意を持っていなくとも、土壇場で手元が狂って流れ弾でも浴びせてきたら――あるいは、浴びせたほうがいいのかも知れないと思う奴すらいるのではないか。高級な食器を目の前にして、壊してしまったらどうしようと恐れる。高所に足を運び、ここから飛び降りたら大変だと足が竦む。そんな感覚で、こちらを狙う者がいるのでは。
斜めになった廊下の向こうから、竜の苦しむ声が響き、徒党の緊張を助長する。レナーデが笑顔を浮かべて振り返り、
「じゃああんたら、あたしらが今から突っ込むから、ゆっくり来なよ。その方がいいだろう、安全で……」
「ああ、頼むぜ」シャロウシープが抱えているラダマンテュスが言った。「狙いは正確にな、味方に当たったら大変だ」
「もちろんさ、腕の良いのばっかりそろってるんでね、心配はいらない……」
レナーデの背中へ向かってシャロウシープは、耳を長くしておけ、と呟いた。彼女は特に反応しなかった。
暫しの間、銃声とが響き、恐ろし気な絶叫もいくつか聞こえた。それが蜂の巣にされた獲物の断末魔か、竜獄で劫罰を受ける竜のものかは判別できなかった。数分後、斜めになった廊下に徒党たちも踏み出し、死体を解体して必要な部位を剥ぎ取ったり、落ちている武器を拾ったりする。シャロウシープは荷車を引いていた――魔剣は二振りもいらない、少なくとも自分には――室内に熱帯の木々が突然繁茂し、辺りは熱気に包まれる。目の前に四腕の巨大な影が見えて、思わず口中に涎が湧く――肥大した犬歯が疼いている――結局、危惧していた〈膿み傷〉による狼藉はなかった。クレウーサはいつしか姿を消し、誰に聞いてもそんな奴は知らない、見たことがない、と答える。
バブラスはこちらの作戦を見抜いて逃走したのだ。今回はこちらの勝ちだが、ニンフェルごと奴を焼き尽くさなければ、戦いは終わらない。