第121話 馴れ馴れしい部隊
名も無き徒党のメンバーたちは、最初からそうだったようにバカン王国の流儀に順応した――否、最初からそうだったのだ。今となってはグリモでの日々など、なかったことになったかのようだ。あの怪人たちの劇場型犯罪も、蒸気越しに見る魔導甲冑の闊歩も。今、この国で耳にするのは、繰り返される秘密めいた意味深な囁き。後ろめたい感情が喜びとステータスに変換されるプロセス。ある意味この国では全員が怪人みたいなものだ。派手好みではなくコソコソする隠密型の。
しばらくしたある日に、いきなり彼らが変貌していて困惑することもあった。メル・ロメロは取り澄ました感じの、ビジネススーツを纏った背の高い容姿になっており、本人が名乗るまで気づけなかった。もはや彼女は死体に興味を持っていたことを忘れていた。あの日、仮死状態に陥ったシャロウシープを誘拐したことも、異なる世界に消え失せてしまったようで、このままではバブラスもどこかへ転移して二度と探せないのではないかという不安もあったが、ひとまずは奴がこの街から離れないという前提で考えよう、と決めると、信じられないほどの力が湧いて来て、なんとしてもニンフェルを全て吹き飛ばしてやろうという意思が固まった。
レッドこと〈赤き滝のオベロン〉は、その名の通り髪の毛と両目が燃えるような赤色に変化していた。彼は幼少期にこの姿のために迫害を受けたのがトラウマになっているらしく、逆に褒めるとすぐに気を良くした。のらくら者たちは「まるで炎のようで格好いい」「昇る太陽のようにまばゆい」などと賛美し、彼に飲み食いの代金を支払わせていた。
新規加入した一団もある。〈タコ迷宮〉と呼ばれている、頭部がタコに変異した魔物や人族が襲ってくる場所があり、そこでシャロウシープが現実を燃焼させ墨を飛ばす犬とか豚を焼いていると、武装した馴れ馴れしい部隊が話しかけてきた。
バカン人は基本的に相手をファーストネームで呼び、親密さを表面上だけでも繕う習慣がある。この部隊も互いに、いかにも気のおけぬ仲という風を装っていて、肩や腰に手に触れあったりしていたが、どうしようもなく暴力のにおいを隠せなかった。
盗賊ギルドか、場末の犯罪組織かなにかではないかとシャロウシープは推察した。彼らは、最近活躍が目覚ましいあなた達の徒党に加えてくれ、と言って来た。
――活躍が目覚ましい? そこいらの路上や酒場でくだを巻き、子供のお使いみたいなクエストだけをこなす、つまらぬ立場だ。おせじはどうでもいいが、自分には目標がある。仇敵である怪人バブラスを亡き者にするため、この都市を丸ごと焼き尽くす。あなたがたはそれに殉じる覚悟があるのか――シャロウシープがにわかに熱を帯びた言葉でそう問いかけると、にやけたまま彼らは、もちろん命じてくれればすぐさま薪となるつもりなのだ、と答える。