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DUNGEONERS:LIFEPATH  作者: 澁谷晴
4:Shallowsheep
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第120話 講義

 講習を受けるために公社地下の会議室へやって来た。自分一人だけかと思っていたら、三十人ほどが既に着席していた。講師はドヴェルの小母さん(声の感じからそう若くもないって推測した)で、最初に贈賄者を募った。数人が申請書類を手にして進み出る。バカンの公共施設には大抵、賄賂のための部署が用意されている。十人ほどの贈賄者たちは係員に案内され退出した。今名乗り出なかった者の中にも、賄賂を贈りたがっている者はいて、彼らは真面目に講習を終えた後で私的にもっと上の者に鼻薬を嗅がせたがっている。


 講師はまず皮を剥いたタマネギを取り出した。そして、教室内の受講生に、針を一本ずつこれに突き刺すようにと指示し、一人ずつ、小さな針を差し込んでいった。これに何の意味があるのだろうか、と思っていたが、尋ねる者はいなかった。誰もが無言で義務的にそれを終えた。


「わたしが提唱した新呪法によって、野菜の甘みを増す効果を発揮できたかと思う。それには本来、念・意志の力が必要とされてきたんだけど、君たちは特に何の考えもなしに今やったじゃろう? この中にタマネギへ憎悪を抱いている者がいたなら別じゃが。そう、必要なプロセスをこなすことに意味があるのであって、意志は別にどうでもいいというのがこの呪法の特徴じゃな。この甘いタマネギはわたしが後で食べる。この講義はおしまい」


 人々は退出した。シャロウシープは一人残って、今の講義の内容を黙考する。必要なプロセスをこなすことに意味がある。もっと言うならば、そのプロセスをこなすことよりも、その一連の流れが用意・形成されたことの方が重要なのだ。成すべき何か。それを無から生成した。人族が神より授かった使命というのは、このことではないか。使命感を持っていなくても確固として持ち合わせているふりができるし、涙を流すことさえできる。そうして、何か重大な意味があるように虚無を糊塗するのが、魔術の神髄なのではないか。魔術。それは世界を書き換えることだ。魔力と儀式を用いずとも、何らかの手順通りに何かを成し遂げる、それによって世界を書き換えることができるなら――例えば、まだ定義されていない法則に従う者は、どのような末路を辿るのだろうか?


 とにかく課せられた義務は達成したので魔法災害による罰から自由になった。現実を燃やす魔術が後には残った。この火を大きくできれば、ニンフェル全土を焼却することも可能だろう。もしも、大人数でこれを一斉に使えば。それを夢想するのは気分の良いことだった。例えるならばそれは、祝祭だ。

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