第109話 円卓の騎士リース
その日から団員たちは忙しく動き始め、バブラスの手がかりだと言って得体の知れぬ代物をどこからか持ち出してきた。犯行に使われた凶器とか遺留品というガラクタや、メル・ロメロが持ち込んで来た被害者や本人の遺体。シャロウシープは次第に、こいつらは自分の与太話に対して更にふざけることで意趣返しをしているのだろうか、あるいは集団妄想に取り付かれているのだろうか、と考え始め、どちらでも良いか、という諦めに至った。
公社の中に棺桶や死体袋、ガラクタなどが積み上げられて行くが、職員や他の迷宮守りは何も言わなかった。
ある日、ラダマンテュスと共にエールを飲んでいると、一人の騎士が入り口から入って来た。その〈竜と円〉の紋章の入ったサーコートは、バカンの 〈円卓騎士団〉のものだった。清楚な乙女といった感じの容姿だったが、彼女は無礼極まりないことを叫ぶ。
「私は迷宮都市ラウンドテーブルから来たリースと申します! この蒸気に包まれた、汚らしいゴミだめから脱出するなら、我らが闘技場においで下さい! 雑魚は知りませんが優れた戦士ならば、その腕次第で望みが全て叶うのですよ」
人々は一瞬、ムッとした顔を向けるが、公社内が確かにゴミだめと化しているのを思い出したためか、反論はしなかった。
「私の権限にて試しに一戦、闘技場の空気を感じ取ってもらうこともできます。さあ、その臆病な日々に終止符を打ってみませんか!」
すると荒くれ者たちが、「面白ぇ、どんな相手だろうが叩きのめしてやるぜ!」と気炎を吐き名乗り出る。リースは公社の壁にあった見慣れぬドアに彼らを誘った。シャロウシープも、酔っ払いたちと共にその向こうに足を踏み入れた。
そこは確かに、闘技場の客席だった。多くの人々が円形の場を囲んで、期待に胸を膨らませている。
「本日の挑戦者は騎士リースが呼んだグリモの命知らずたちだ! このゲストたちの腕を確かめようじゃないか。闘士よ、戦神エギラとアルトリウス・フレデフォート候がために、いざ武器を取るのだ!」
姿の見えぬ司会者がそう叫ぶ。かつてどこかでこういった場所を見た――あの目玉の化け物が突っ込んで来る――そう、あのような。荒くれ者の前に出現したのはまさに〈オクルス〉、巨大な眼球の怪物だ。
人々は、新参者がこれからそいつに粉砕されるのを知っているので期待から歓声を上げた。闘士は剣を手に飛び掛かっていくが、一睨みで麻痺し、そのまま敵の体当たりによって吹き飛ばされた。首の骨を折られて即死したが、場外に運び出されると息を吹き返した。観客たちは敗者である彼にも万雷の拍手を送った。
リースは観戦していたシャロウシープに近づき、「あなたも何か不釣り合いな大望でも抱いているんじゃありませんか?」と問いかけた。バブラスという悪党の手がかりが欲しい、と言うと、彼女は首を振った。
「あのバブラスですと? あまりにも大きすぎる野望ですね、冗談にしても不相応だ。手を引くべきです、ベンシックの迷宮守りよ」