第107話 死体泥棒、メル・ロメロ
「ああ、ご招待したお客様だね。あたしはメル・ロメロ、この館のあるじさ。慌ただしくて済まない、〈聖モンドの片づけ〉さながらで。もちろん理由があって招待したのだよ、あなたを」
自分が死んでいるのを幸いに、臓器や皮膚を売るために盗んだんだろう。シャロウシープが銃を構えたままで追及するが、メルは取り繕うのをやめない。
「あたしは金のために盗むのではなく、屍術師たちのごとく実用的な目的でもない。盗みそのものが目的なのだよ、我が友。ああ、それとは別だよ、あなたは! そこらの凡庸な屍なぞ、比べ物にならないじゃないか! まだ生きてたことだし……」
そう言う盗っ人に対し、ならば目的を話してくれ、と促すと、まずは物騒な代物を引っ込めてくれ、と馬鹿に明るくメルは要求する。シャロウシープはそうしたが、いつでも腕輪で攻撃魔法を放てるようには準備している。
「あなたを招待した理由だけど、ええと、そう! あなたは迷宮守り、探索者、精力家、そんなのだろう? あたしは徒党を結成したくてね、だけれど良い指導者がいなかった! なのでその役をお願いしたいと思っていたんだ! 頼れる先輩にご指導のほどを、ね。どうだい我が友、少々先走ってしまい、挨拶が後になってしまったけれど、こうした出会いも悪くないじゃないか」
どう見てもとっさに言い逃れるための言い訳だ。ならば、こちらも戯言で対抗だ、とシャロウシープは口を開く。
自分には宿敵がおり、そいつを倒すのが人生の目的だ。お前が仲間になるというのなら、当然それを手伝ってくれるんだろうな。
「ああ、もちろんだとも我が友、そいつの名を教えてくれ。共に打ち倒し、栄光への道の礎としようじゃあないか」
〈バブラス〉というのがそいつの名前だ。正体不明、神出鬼没の怪人。一説には旧帝国中期に存在が確認されており、同一人物か襲名したのか模倣犯かも不明。自分の一族はかつて東大陸に住んでいて、バブラスの調査・討伐を担当していたが先祖が殺され、壊滅寸前に追い込まれ、こちらに逃げて来たのだ。
先祖の因縁など、ほぼ忘れかけていたが、この度、奴は自分に手を出してきた。挑発か、警告かは分からないが、とどめを刺さず仮死状態にするという舐めた手口だ。許しては置けない。メル・ロメロ、お前は自分と徒党を組み、バブラスを追うのだ。
そうシャロウシープが告げると、相手は二つ返事で承諾し、握手をした。もちろんバブラスなどという怪人は、今でっち上げたもので実在はしていない。