第104話 血の探求者
荷車を引き、砂漠を歩んでいく。頭上には二つの月。砂漠の向こう、ある一線から先は急に木々が異様に繁茂し、その上にかかっている雲も、すっぱりと線を引いたようにこちら側で途切れている。世界の接合点だ。
帝国南部に踏み入ろうとするブロウだったが、歩みを止める。砂が盛り上がり、地中から巨体が姿を現した。門番のように待ち受けていたのは、アスラの石像だった。
彼の周囲から、更に何体もの石像が現れる。実際にはアスラたちは本気でブロウを恐れており、その脅威をここで排するつもりなのか。それとも、戯れのつもりか、単なる形どおりの防衛に過ぎないのだろうか。
いずれにしろ、眼前の石像たちを粉砕しなければならない。ブロウは双剣を手に、跳躍する。
フォルディアの死体漁りだった彼は、新たな役目として迷宮守りを選択した。だがそれも、単なる手段に過ぎなかった。異なる世界の彼と〈黄昏の宝珠〉を通して融合し、アスラを狩るという使命を見出した。
〈宝珠〉は本当に単なる象徴だったのだろうか。この先何らかの力を、ブロウに与えることもあるかも知れない。彼が迷宮守りや吸血鬼として、更なる高みに上ったとき。狩りの中で誰かと出会い、どこかの場所に到達したとき。さもなくば、単なる時間の経過によって、その真なる輝きを見せ得る――そうだとしても、それは今ではない。
今夜はただ、血だけを求めて前に進む、そう剣を振るいながらブロウは】
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そう書かれたページが風に飛ばされていく。継承者は、それを読むことはなかった。剣を持っていないし、荷車に乗せて運んでいるわけでもない。自らがその所有者ということを自覚していなかった。ラップローヴは、使用者が何時でもそれを思いのままに振るうことを定義し、保証しているが、その意志を持たない者が剣を使うことはできない。
それでも、その定義と資格を失ったわけではない。
異世界の英傑アレッシアもまた、その近くに佇んでいるが、誰かが彼女を気にすることはない。認識できていても、世界そのものと同じく、存在するのが当然だからだ。アレッシアはただ、傍観する。剣もまた然り。無自覚なる保有者を、今はただ見守っている。