第102話 ナール狩り、ベルマン
ベルマンと名乗った吸血鬼の青年は、ブロウを酒場へいざなった。人造血液を用いたカクテルを出す、同族御用達の店だ。ブラッド・オレンジの甘い酒で乾杯しながら、ベルマンは楽し気に話し始める。
「先ほどは鬼火のにおいに逆上せて、見苦しい所をお見せしました。それにしてもブロウさん、あなたは僕らと同じですよね。ああ、もちろん吸血鬼という点もそうですが、あなただけの黄金の血を、既に見出しておられる。そうではありませんか?」
彼が所属する徒党は、一つの対象からのみ血を飲む者の集まりだ。竜、ゴブリン、盗人、睡眠中の生物、吸血鬼、そしてベルマンは魔獣ナール。確かに、そうだ、と肯定し、ブロウはまず、ナールとは何なのか、と根本的な問いを発した。
「うーむ、いわば僕は専門家。ここで得意げに弁舌を振るうべきでしょうが、生憎ナールという存在は、『説明不能だと説明でき、確信できないと確信している』魔物で……どうしました?」
表の荷車に積んであるラップローヴが、矛盾に対して反応を示した。やはり、〈鬼火斬り〉はナールの一側面の似姿に過ぎないのだろう。口頭での言葉遊びのような説明で、これほど敏感に反応するのだ、エルナと対峙した際に彼がそのものであれば、たちどころに消滅させていただろうから。
魔剣を押さえつけながら聞いたブロウの説明により、ナール、並びに亜種であるウィックドリックというのは、矛盾した複数の形態を持ち、概念的なものも含めてあらゆる箇所に潜んでいるということだけが分かった。
「なるほど、矛盾を斬る魔剣ですか。それはナールにとっての天敵ですね。あなたとともに狩りをするのは残念ながら、やめておくべきでしょうね。一啜りもできなくなりそうだ。同時に、僕にとっても致命的な武器ですね。ナールから取り込んで来た血の力は、周囲の空間に混乱を生みます、それゆえに普段は封じ込めているのですが、幸いしたようです」
実際は、そこまで恐れる必要もないかも知れない。矛盾を突いて倒されたカトリネルエも、それを挙げてエルナを挑発するまでは消え去ったりしなかった。ベルマンがナールの力を解放しただけなら何らの影響もなく、ブロウが彼を害する意志を持って初めて、矛盾の破壊という効果は発揮されるのではないだろうか。いかなる場合であろうと魔剣を意のままに操れる、とブロウたち使用者は定義されているからだ。
それを口にすると、ベルマンは安堵したように頷き、
「そうだと良いのですが。友人と望まずに離れ離れにされるのは悲しいものですからね。さて、ブロウさん。我がナールについてはこのくらいにして、そろそろ、あなたの獲物についてお教え願えますか」