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!!Treasures!!  作者: 松内
前編
9/38

III-3 迷宮


翌朝、リク、アイザ、リーゼの三人は迷宮の前に立っていた。迷宮はグーラン村から徒歩20分くらいのところにあり、ハンターと見られる人物が数名いる。


「これが、迷宮か……?」


アイザは怪訝な表情をし、迷宮の入り口を見つめている。それもそのはずだ、迷宮は遺跡と聞いていたはずなのに建築物がどこにもないのだ。


「この迷宮は地下に続くの。そこの入口から降りるんだよ」


リーゼが指差した先には、不思議な模様の細長い棒が2本立っている。そしてその棒と棒の間に、地下へと続く階段が見えた。


階段の先は暗くてよく見えないが、リクとアイザは興奮していた。この先には一体何が待っているのか、胸が高鳴っているのがわかった。


「じゃあ降りよっか」

「待て、ゴーグルを取り出す」


アイザの言葉にリクも鞄からランプを取り出そうとした。


「使ってもいいけど、すぐに必要なくなるよ」


その言葉に疑問を持ったが、念のためランプとゴーグルを準備した。リーゼを先頭にリク、アイザの三人は迷宮へと続く階段を降りていった。


「明るい………」


リクとアイザは驚いていた。地下迷宮というくらいだ、中は暗いと予想していたのだが、どこに何があるかはっきりとわかるくらい視界が良好だ。迷宮に入る前、リーゼが言っていた言葉の意味を理解した。


「驚くよねぇ、この迷宮自体が遺物だからかな?中は明るいの。地下1階で外に出されることはないと思うけど、気をつけて進んで行こう」


リーゼは歩きながら説明した。迷宮は何階まで下れるかその時次第でバラバラであり、まれに地下1階で外に出された時もあったが、地下4階まで進んだ時もあった。今まで自らの意思で出口から外へ出たことは一度もなく、いずれかの階で強制的に外に出されることばかりだった。


次の階へ進む方法は様々であり、階段で進める時もあれば、仕掛けを解除したら進める時もあった。迷宮に複数回訪れているリーゼでも、よくわからないことが多いのだと言った。


「あと大切なことなんだけど、ここは迷宮自体が遺物だと言われているから、私達の持っている遺物と共鳴しないの。迷宮に入る前も入った後も、遺物に共鳴がなかったでしょ?」


リクとアイザはここに来るまでのことを思い出した。確かに、いつもなら遺物があると共鳴するはずが、リクのハンマーもアイザの2本の剣も、うんともすんとも言わなかった。


「じゃあどうやって遺物を探すんだ?」


通常は、共鳴したところに新たな遺物があると考えて探索していくが、反応がないとなればどのように探して行くのだろうか。リクとアイザは疑問を持った。


「それは進んで行ったらわかるよ」


リーゼの言葉に首を傾げながら、リクとアイザは迷宮内を進んだ。



迷宮の地下1階は床も壁も天井も石造りとなっていた。よく見ると使われている石はキラキラと発光しており、これのお陰で迷宮内は明るく保たれているということがわかった。


リーゼを先頭に細い通路を3人で歩いて行くと、広い空間に出た。空間には台座のような物が複数あるが、どれも上には何も置かれていない。リクは台座に触れながらじっくりと観察する。


「これは?」

「何かよくわからないの。元々は何か置いてあったのかな?迷宮は一定の時間が経てば変化するって言ったけど、地下1階は今までに変わったことがないの。毎回この空間で、台座には何も置かれていない」


リーゼの声が少し反響しているように聞こえる。


「遺跡、だもんな。暮らしていた人がいて、何かに使っていたんだろうか……」 

アイザは、物寂しい表情で台座を見ながらポツリと呟いた。何気なく発したアイザの言葉にリーゼは少し驚いた。


「アイザちゃんは高尚なことを言うんだね。今まで色々な人達とここに来たけど、皆遺物探しに熱心でそんなことを言う人はいなかったよ」

「それは……」


アイザは返答に困った。なぜなら、迷宮を作ったラタ族の血を引いているから気になったとは言えないからだ。アイザの困った様子を察したのか、リーゼは安心させるように微笑んだ。


「私は素敵な考えだと思う。迷宮は遺跡だもんね、遺されたものに敬意を払って進まないとね」

「あぁ、そうだな」


その返答にアイザは嬉しくなった。まるで自分の遠い祖先であるラタ族のことを、認めてもらったような気がした。


「この階段を降りると地下2階か?」

「そうだよ。ここから先は何が出るかわからない」


アイザとリーゼが階段付近で話している時、リクは石の壁に小さな窪みができていることに気づいた。近くで見てみると、石が四方に積み重ねられ掌くらいの隙間ができていて、その中に小さな杯がある。リクは杯を触ってみたが、ピクリとも動かなかった。


(飾りだろうか……?)


「おーい!リク!行くぞーっ」

「うん、わかったー!」


リクは杯が気になったが、先を進むことにした。



⬜︎⬛︎



「「おぉーっ!!」」


リクとアイザは感嘆の声を上げた。地下2階へ降りると、目の前には大きな湖のようなものがあった。


「すごい!どうなんってんだ!?」


アイザはすぐさま走り湖に触れた。アイザの手にはサラサラと水が滴っている。


「水だ、本当に触れる!!本物なんだな」

「どうなんってるんだろうね?リーゼが来た時も湖はあったの?」

リクも水に触れ注意深く観察する。


「うん、何回かあったよ。何度見ても不思議だよね」


先程までいた地下1階とはうって変わって、完全に屋外にいるような景色となっていた。地面には石ではなく土と湖があり、壁には木々が生い茂り、天井は空とまではいかないが、全体的に青っぽくなっている。


アイザは好奇心旺盛に色々なものに興味を示し、辺りを探索する。生い茂っている木々の方へ向かい壁を触り、「なるほどここに壁がある。屋内ではあるんだな」と言い一人で納得している。次は地面に触り「おぉ、本物の土だ」と言い、入念に調べている様だ。そんな様子をリクとリーゼは温かい目で見守っている。


アイザは再び湖の方へ向かい、水の中を覗く。すると、湖の中に何か光る物があることに気づいた。


「あっ!なにかあるぞ!」


その言葉にリクとリーゼも湖の中を覗く。


「本当だ。光ってるね、何だろう?」

「あれ、遺物じゃないかな?」


リーゼの言葉にリクとアイザの表情も光った。


「「遺物!?」」

「さっき言ったでしょ?遺物の探索方法は進めばわかるって。迷宮では遺物はその辺に落ちていることが多いの」

「そうなのか!よしっ取りに行ってくる!」


アイザはそう言って、履いていたロングブーツを脱ぎ始めた。


「えっ!?取りに行くって、潜るの?」

「そうだ、泳ぎには自信がある。任せてくれ!」

アイザはサムズアップし、リクに爽やかな笑顔を見せた。


「ちょ、待っ………」  


ドボーンッ!!


リクが制止する暇もなく、アイザは湖の中へ潜っていった。湖面がフクブクと音を立てている。その様子を見て、リーゼはしみじみと呟いた。


「アイザちゃん、破天荒だねぇ…」

「そうなんだよ!………まぁでも、アイザの良いところだね。もう少し話しを聞いてほしいけど」


困ったように笑うリクを見て、リーゼもつられて微笑んだ。


プハーッ


アイザが湖面から顔を出した。右手には銀色の腕輪のような物を握っている。


「見つけたぞ!湖の中の岩の上にあった」


リクはアイザへ手を伸ばし、地面へ上がるのを手伝った。

湖から上がったアイザの全身を見て、リーゼは少し苦笑いする。


「よく取ったねぇ。アイザちゃん全部濡れてるけど…」

「これ腕輪だよね?何ができるんだろう」


その言葉にアイザは持っていた腕輪を満遍なく触り、何か気づいたように真剣な表情をした。


「あっ!!」

「何かわかった?」

「石が動くぞ!」


アイザは銀色の腕輪に装飾されている黄緑色の石を触り、コロコロと動かした。


「「………それから?」」

「あとなんか音が鳴っている」


三人は腕輪に近づき耳を澄ませた。


グワァー


何やらよくわからない変な音が聞こえる。リーゼは真顔で問いかけ、リクは考えるような表情をした。


「……何これ?」

「4級かな?今はよくわからないけど、後で使い道がわかるかも」

「かっこいいな!リク、アイザ、これ貰ってもいいか?」


アイザは腕輪を気に入ったようであり、まるで宝物でも見つけた子どもの表情でリクとアイザに問いかけた。


「いいよ」

「私もいいよ〜」

「ありがとう!」

アイザは手に入れた腕輪を、嬉しそうに左手首に装着した。



「それにしても、アイザちゃんそれで先に進むの?風邪ひいちゃうよ?」


リーゼは再び格好について言及した。言葉の通り、アイザは全身濡れていて、このまま進むのは相応しくないだろう。


「そのうち乾かないかな?」

「乾かないと思う」


アイザはその言葉に何やら考え込み、閃いたという表情をした。そして左腰に下げている風剣を取り、リクの前に差し出した。リクは困惑したようにアイザと風剣を交互に見る。


「……なに?」

「これを使って乾かそう。リク、私の方に風を送ってくれないか?」


その言葉にリクは絶句した。


「えっ…無理だよ!剣なんか使ったことないし、間違ってアイザのこと切っちゃうよ!」

「大丈夫だって!リクならできるよ。それに切れたらリーゼに治してもらえばいいし」


アイザのお気楽な言葉に、リクは再び絶句した。


「……切る方のことも考えてよ…。それに、この剣どうやって使うの?」

「簡単だぞ?大きく振れば大きな風が出るし、小さく振れば小さな風が出る。ちょっとやってみてくれ」 


アイザから風の剣を渡されリクは戸惑っていたが、剣を右手に持ち、誰もいない方へ小さく振る。すると、小さな風がヒューッと出てきて、木々を揺らしつける。確かに、これぐらいならばアイザのことを切らないかもしれない。


「じゃあやってみるけど、危ないと思ったら避けてね」

「わかった!」


リクはアイザの方へ小さく剣を振った。すると小風が舞い、そよそよとアイザの白い髪の毛が揺れる。


「もうちょっと大きく振っていいぞー!」


その言葉の通り、リクは先程より少しだけ大きく剣を振った。ザァーッと風が起こりアイザの身体を揺らした。


「いい感じだ!そのくらいで頼む」

「わかったー!」 


その後も乾燥させる作業は30分程続いた。


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