I-2 遭遇
ルクコアからメッグ村へ行く途中の森の近く、リクと彼女は街を抜け出し、しばし森の中で休んでいた。
加工物のグローブをしているため、重くは感じないが、人間一人を抱えて屋根を移動するのはなかなか労力がいるものだ。彼女はスッと立ち上がり、リクの方を向き問いかけた。
「あれくらい私一人でどうにでもできたが、助けてくれた礼を言う。ありがとう」
「どういたしまして」
「……お前なぜ私を助けた?」
「なぜって……」
リクはなぜ彼女を助けたのか考えた。それは人道的に…であって、大柄な男女に華奢な女の子が絡まれていたら、助ける人は多いのではないかと思う。
しかし、彼女にそれを言ってしまうと「私なら一人でも問題ない」と言い返されてしまうような気がした。
「……ほっとけなかった?」
「なぜ疑問系なんだ。……まぁいい。お前も鑑定所にいたから、てっきりこれ狙いなのかと勘繰ってしまったよ」
そう言って彼女は左腰に付けている鍔が緑色の剣に触れた。
「それって、さっき鑑定していた剣?」
「そうだ。なかなか良い鑑定結果だったからな。あいつらもこれが狙いだったし」
「僕は違うよ。剣使えないし、ハンマーがあるし」
「そうか。なぁ、そのハンマーって…………」
ガサガサッ
音がした方を見ると、ルクコアで絡んできた大柄の男女が森の中まで追いかけてきていた。ニヤニヤとした笑みを浮かべ、獲物であるパイプの様なものを手に持っている。
「こんなところにいやがった。逃げ足の速い猿め。俺達から逃げられると思うなよ」
「それはこちらのセリフだ。こんなところまで来て、お前達よほど暇なんだな」
彼女は呆れる様に呟いたが、表情は少し嬉しそうに見えた。大柄の女が不適な笑みを浮かべる。
「ふん、そんなこと言ってられるのも今のうちでしょうよ。あんた達みたいなクソガキ、私達の相手じゃないわ」
「よし、僕も……」
「待て。あいつらは私一人で十分だ」
リクが応戦に入ろうとすると、彼女が遮った。
「どうして?二対一じゃさすがに分が悪いんじゃない?」
「これの力を試してみたくてな」
そう言って、彼女は左腰に付けてある鍔が緑色の剣を抜いた。先程鑑定に出し高額の値が付き、目の前にいる大柄の男女が狙っている、まさに話題沸騰中の遺物である剣だ。
「さぁお前はどんなものかな!!」
彼女は大きく剣を振りかざし、大柄の男女に向かって空中を切った。すると剣から突風が巻き起こり、辺りの木々がざわざわと揺れ動く。風で土煙が舞い上がり、大柄の男女の姿が見えなくなった。どうやら風を纏う剣のようだ。
「ふっ……飛ばされたか、あっけないな。」
彼女はしたり顔で言い、剣を左腰に納めた。しかし、土煙が落ち着き、辺りが見回せるようになると、大柄の男女は少し遠ざかっていたが、そこに立っていた。
「こんな風どうってことねぇよ!この鎧があればなぁ!」
「この鎧はとんでもなく頑丈でねぇ、突風だろうが大きな岩に挟まれようが無事なのさ!!」
大柄の男女は、得意げに身につけている赤黒い鎧を触り叫んでいる。なるほど、身につけている鎧は一流の様だ。
「今度はこっちの番だなぁっ!!」
獲物を振り上げ大柄な男女が勇ましく走ってくる。彼女は後ろを振り向き、リクに真顔で言った。
「どうやら、この剣とあいつらの相性は最悪らしい」
「どうすんのさ?」
「問題ない。あまり気は進まないが、もう一つの剣を使うとするか」
彼女は右腰に下げている鍔が紫色の剣を抜こうとしたが、リクはそれを止めた。足元に落ちている石を見て名案を思いついたからだ。
「ちょっと待って、良い案を思いついた!」
「…大丈夫なのか?」
「うん、そこにある石を僕の方に投げて!」
彼女は足元に落ちている石を拾った。腑に落ちない表情をしているが、今は疑問を聞く時間もなさそうだ。
「当たると危ないなら、僕の横の方から投げてね」
そう言ってリクは腰からハンマーを取り出し、ぎゅっと柄を握った。すると面が拳くらいの大きさだったハンマーが、一回りも二回りも大きく変化した。彼女は驚いた表情でリクに言った。
「そのハンマー、大きくなるのか!」
「そうだよ。石を投げて!」
彼女はリクの左横に立ち、言われた通り石を投げつけた。
「よいっ、しょっと!」
そんな掛け声と共に、リクは投げられた石をハンマーで大柄の男女の方へ撃ち上げた。
カーン!!
軽快な音がすると、石は見る見るうちに大きくなり、大柄の男女の上にいく頃には、持ち運ぶことができない程の大きな岩となった。そして、ズドーンと言う音と共に落下し、大きな岩と地面の間に挟まれた大柄の男女は身動きが取れなくなった。
リクは岩に潰されている大柄の男女へ近づき、感心したように声をかける。
「本当に岩に挟まれても無事なんだね。丈夫な鎧だ」
「くそっ、ここから出せ」
「私達にこんなことしていいと思ってんの!?」
大柄の男女は怒りに震え、悪態をついている。
「まぁ、相手が悪かったってことで。じゃ、行こうか」
リクは軽くいなしにっこりと笑い、離れたところへいる彼女へ声をかける。
「おいっ待て!石をどかして行け!」
「すまなかったよ。反省してる」
遠くで喚いている声が聞こえるが、二人は聞く耳を持たずスタスタと歩き、森を出て街の方へ向かって行った。
⬜︎
森を出てルクコアへ向かう道中、彼女がリクに問いかけた。
「あれはどうなるんだ?あの石、ずっとあの大きさなのか?」
「元の大きさに戻るよ。時間が経ったり、ハンマーから距離が離れたら元に戻る。どの程度で戻るのかはよくわからないけど」
彼女は感心したように頷き、興味津々と言った様子でリクに話し続ける。
「なるほど。お前のハンマー、物の大きさを変えられるのか?」
「そうだよ。生き物は無理だけど」
「小さくもできる?遺物の大きさも変えられるとか?」
「うん」
「もしかして……お前のハンマー1級か?」
「…多分。鑑定に出していないからわかんないけど。少なくとも、僕は同じ性能の遺物を見たことがないし、聞いたこともない」
彼女はじっと黙り考え込んでいる。リクは彼女の態度に一筋の考えがよぎり、怪訝な顔をした。
「なに?よこせって言われてもあげないよ……?」
それでも彼女は黙り考え込んでいる。そして突然リクの前に立ち塞がり、目を輝かせてリクを見た。彼女のキラキラとしたオレンジ色の瞳は、リクの黄緑色の瞳をしっかりと捉えていた。
「私達、手を組もう!!」
「へっ?」
彼女から予想外の言葉が出てきて、リクはきょとんとした声を発した。
「仲間になろうって言っているんだ!」
「仲間……?なんで?」
「お前も知っていると思うが、遺物同士は共鳴し合う。しかし、共鳴には相性の様なものがあり、共鳴する物としない物がある。だから、お前のハンマーがあると、より色んな種類の遺物を探すことができるだろう?」
彼女はしたり顔で、そして少し早口でリクに説明した。
確かに彼女の言う通りだ。
(そうだけど、それは君にメリットがあるだけでは?僕は今まで困ったことなかったしなぁ……)
リクは正直にそう思った。リクの表情を見て悟ったのか、彼女は得意げに話しを続ける。
「安心しろ、これはお前にも良い条件だ。私の右腰にあるこの剣も1級でな。鑑定士のお墨付きだ。その後同じ性能の遺物が見つかったと聞いたことはないし、今でも希少性の高い物だ。だから、お前も私と行動を共にすることによって、私の剣が共鳴した遺物を探すことができるってわけだ!!」
彼女は「すごいだろ!」と言わんばかりの顔で、リクに畳み掛けて提案してくる。彼女の提案は魅力的だが、リクには気になることが一つあった。
「発掘した遺物の分け前はどうするの?」
チームを組んでいたハンターが、遺物の分け前で揉めて解散した、というのはよく聞く話しだ。なんせ遺物を発掘し金銭を稼ぐハンターだ、分け前は生活に直結するので揉める要因となる。
「それも大丈夫だ。私の求める遺物は一つだけだからな。それ以外の遺物はお前に譲るよ。……あっ!でも私も生活をする金は必要だからな、少しは貰うぞ?」
「一つだけ探している遺物?」
———たった一つの遺物だけを探している。
リクには不思議なことのように聞こえたが、彼女は疑問を抱いていない様子で話し続けた。
「元々持っていた、この1級の剣は使い勝手が悪くてな。使いやすい剣が欲しいと思っていたところに、この風の剣を発掘した。だからこれは貰った。だが、本来の私の目的は一つだけだ」
「……目的の遺物ってなんなの?」
リクの問いかけに対し、彼女はしっかりと目を見て力強い口調で答えた。
「"はじまりの聖杯"」
その言葉にリクは目を丸くして驚いた。
「はじまりの聖杯ってあの…?」
「そうだ。あの有名な、全てのはじまりとされる聖杯だ。知ってるだろ?はじまりの聖杯は10年前、いきなり姿を消したんだ。以降その行方は誰も知らない。聖杯を発掘したジョン・ウェルナーも亡くなってしまったしな」
はじまりの聖杯が紛失されたことはリクも知っている。他のハンターから聞いたことがあった。
「……無茶じゃない?こんだけ世の中にハンターがいて、何の情報もないんだよ?」
リクには、彼女の発言が荒唐無稽の様に聞こえた。だが、リクの言葉に彼女はより一層、瞳を輝かせた。
「だからだよ!!誰も行方がわからない全てのはじまりの遺物、ロマンがあるじゃないか!こういう大物を探し当ててこそハンターだろ!」
彼女はキラキラとした笑顔で嬉々として語っている。リクはその姿をひどく眩しく感じた。
「……いいよ」
「えっ?」
「仲間になろうよ。君と一緒なら楽しそうだ」
リクはにっこりと微笑んだ。その笑顔は、まるで遺物を見つけた時の様に輝いている。彼女も微笑み返し、リクに右手を差し出した。リクはそれに応える様に彼女の右手をしっかりと握り返した。
「これからよろしくな。そうだ!自己紹介をしていなかったな。私はアイザだ。お前の名前は?」
「僕はリク。こちらこそよろしくね、アイザ!」
こうして二人の冒険は始まった。
これからどのようなことが待ち受けるのか、それを知るのは彼らと共鳴した遺物だけなのかもしれない。