ヤオヨロズの軌跡・外伝~闇光の友情編~
静かな夜、動物・鳥・人など生き物のほとんどが寝ているこの時間帯に何体かの影が動いていた。その影達は人が住む街の近くに陣を構えている。
「しかし何で深夜にこんな遠い所まで来なきゃなんねぇんだ?」
「そう言わないで下さいよ。これも任務ですよ。」
「そうですよ。しかも国王様から部隊へ直の命令なのだから必ず成功させねばなりません。」
影同士が話し合っている。どうやら影の正体は人のようだ。その人の集団がまるで今から戦をするような物々しい武装に身を固めて立っている。
「そもそもこの任務の目的は何なんだ?いきなり永久を紡ぐ風に潜入しろとは・・・」
「まぁそろそろ頃合かもしれませんね。隊長、話してよいでしょうか?」
「別に構いませんよ。むしろ任務の内容が分からないでは困りますし・・・」
「分かりました。では話は一昨日にさかのぼります。私と隊長はセンカ様に呼ばれました・・・」
★
ヤオヨロズ城…ヤオヨロズの歴史が詰まっているこの城で今、二人の男が廊下を歩いている。一人は長いオレンジ色の髪で額には赤いバンダナを巻いている。そしてもう一人は黒いハットにサングラス、黒いコートと全身が黒一色に覆われた近くに人がいれば治安維持隊に通報されそうないかにも怪しい姿の男だった。
「しかし隊長、いきなりお呼び出しとは何の用件なんでしょう?」
「分かりません。まさかお給料を下げるという話とかでは?」
「そんな!?オレ今月ピンチなんですよ~」
男二人が話しながら向かっているのはこのヤオヨロズ国の国王であるセンカさんのいる王の間である。普段は幹部の方が任務を伝えるので王から直接話があるというのはかなり珍しい事だった。二人は王の間につくと扉を開ける。
「お待ちしていましたよ。わざわざすみませんね。こんな所まできてもらって。」
部屋の一番奥、そこの質素な椅子に王は座っていた。周りには必要な物以外何も無く、これが本当に王の部屋なのかとも思えてくる。
「いえいえセンカ様の為ならいつでも参上します。」
「同じくです。」
男達がセンカの前に跪く。そこには王と国に対する確かな忠誠心が表れていた。センカはそれを笑顔で見ると話を続ける。
「話というのはほかでもありません。貴方達の部隊に任務を言い渡したいのです。」
「はっ!なんなりとお申し付けください。」
「ありがとうございます。実は貴方達に永久を紡ぐ風に潜入していただきたいのです。」
それを聞いて男二人は同時に顔を見合わせた。そしてまた二人同時にセンカを見る。
「永久を紡ぐ風に潜入?」
「センカ様!それは正気ですか!?」
黒服の男がセンカに向かって叫ぶ。オレンジの髪の男も声は小さかったがその顔には明らかな驚きがある。二人がそうなるのも当然だろう。永久を紡ぐ風は現在、あの海武国が統治している街なのだ。
海武国、海から渡ってきた渡来人が作った国で海から来るその豊富な資源を糧に軍事力を高め、今やあの最凶といわれたソウル帝國とも肩を並べる位に成長した軍事大国である。
その国が統治する街に侵入するという事はつまり、下手をすれば海武国と戦争になるかもしれないという事だ。
「はい。私は正気です。永久を紡ぐ風に潜入し、出来るなら内側から攻め落としてください。」
「…よろしければ理由をお聞かせ願いませんか?」
オレンジの髪の男が跪いたままセンカに問うた。センカはその男をジッと見つめて言いづらい事なのかしばらく口を閉ざす。しかし意を決したようで静かにまた話し始めた。
「貴方たちに見極めて欲しいのです。」
「見極める?」
「はい。先日、海武国から一時的な同盟の打診がありました。」
「海武国から!?ヤオヨロズもやっと他国に認められたんですね~」
黒服の男が安心した顔になる。この男、どうやら感情の起伏が激しいようだ。
「いえそれがそうでもありません。先日、ソウル帝國が海武国に宣戦布告があったと諜報部から報告がありました。それに次いで海武国と同盟関係にあるスター連合がソウル帝国に対して同盟国が攻められたという名目で宣戦布告。」
「はっ?」
男の安心した顔が固まる。最凶と呼ばれるソウル帝國とそれと同等の力を持つ海武国とスター連合の戦い、つまりそれは・・・・
「世界戦争じゃないですか!?」
「はい、そしてその時に海武国からの同盟の打診、要約すると「我が国も海武国を守る為に戦争に参加しろ・・・と。」・・・はいそうです。」
センカの言葉をオレンジの髪の男が引き継ぐ。センカは先に言われて少し落ち込んでいたがやがて気を取り直したように紅い瞳に力を込めた。
「内容には海武国が自国を守る…と書いてありますが先ほどの情報を聞いてイマイチ信用に欠けるのです。ですから今まで数々の任務をこなしてきた貴方達に同盟を結ぶほどの信用性と力があるか。見極めてきてください。よろしいですか?」
「分かりました。」
「了解です。」
センカの内容に頷く二人、命令を強制しようとしない。これがセンカが民に慕われる理由でもある。そしてセンカは椅子から立ち上がると言葉を発した。
「では改めて任務です。無限の軌道部隊隊長、キャッド・ラゴン。副隊長、ハテナ・ディン。二人とその部隊に永久を紡ぐ風に潜入および調査をお願いします。なお調査の事は他の部隊員には内緒でお願いします。」
「「ハッ!国王の命のままに!!」」
二人の言葉にセンカは満足そうに笑みを浮かべる。そして二人は王の間を出て行った。
★
「以上が私達が受けた任務です。」
黒服の男…無限の軌道部隊副隊長であるハテナ・ディンが見極めろと言われた事以外を話し終える。話を聞いていた一人はウンウンと頷いた。
「つまり永久を紡ぐ風に潜入して、出来るなら落としてもいいとこういう事だな!?」
「まぁそういう事ですね。」
「そろそろ時間だ。行くぞ。」
無限の軌道部隊隊員、忍びの格好をしたペケサ・バツが納得したような顔をすると同じく無限の軌道部隊隊員のウルフ・ザブザが作戦時間が近い事を告げた。
「作戦開始まで後5秒、…4…3…2…1…作戦開始です。我ら無限の軌道に時の神の祝福あれ・・・」
「「「「祝福あれ!!」」」」
無限の軌道部隊隊長であるキャッド・ラゴンの言葉と共にその場にいる全員の姿が消えた。まず永久を紡ぐ風の門番が倒れる。
「さすがペケさんですね。」
「最初はオレに任せろ!!」
門番を存在を気づかせずに一瞬で無力化したペケの実力にハテナが褒めると腕をまくりあげてそれに答えるペケ。まず忍びがそんなに存在感を出してはいけないとハテナは思うのだがそこはまぁ良しとしとこう。
「何だ!?」
「敵襲だぁ!!」
「チッ…早いですね。」
どうやら街の守備兵が気づいたらしく次々と武装した兵がこちらにやってくる。いきなりの襲撃にも焦らず向かってくる所から兵の練度は高いようだ。
「ウルフ、ここは任せました。私は敵の親玉を倒します。アレを使っても構いませんよ。」
「了解。今日は綺麗な満月だ・・・・」
「!?なっ、何だコイツは!?」
ウルフの周りを街の守備兵が囲む。ウルフはその守備兵達を見て笑うとその体に変化が起き始めた。その皮膚からは毛が生え、歯が鋭くなっていく。
「ウガアァアア・・・・・・」
呻き声のような声を出しながら体の変化は続く。爪は30センチほども伸び、目はまるで動物の様に細く…そして鋭くなり始めた。そして変化が終わった時、ウルフの体は完全な狼となっていた。ただし、2本足で歩く。
「まさか・・・」
守備兵の中の一人の声が掠れる。そして・・・・・
「ビーストマスターだあぁあ!?!?」
「ウオォォォオオオン!!!」
その声が叫び声になるのとウルフが吼えたのは同時だった。
ビーストマスター、体の中に稀に死んだ獣の魂が宿り、体をその獣の姿に出来る者の事。強大な力を持ち、脅威になると認識された事からこの時代では異端とされ、差別の対象とされてきた者達。それが今自分の目の前にいるのだ。
「さて…暴れるか。」
そしてその場所は次の瞬間には阿鼻叫喚の地獄となった。
「派手にやってますね~」
「私達も急ぎましょう。」
キャッドとハテナは司令塔を落としに街の中心部へと向かう。その前に一人の男が立ちはだかった。
「アンタらが襲撃者だな?」
「敵か…しかもコイツ、できるな。」
「隊長は司令塔へ、この人は私が葬ります。」
「分かった。」
「おい待て!」
キャッドが先に行く。追いかけようとした相手の進路をハテナが塞ぐ。そして両者は互いに睨み合った。
「そういえばオレを葬るとかいっていたな。」
「ええ、言いました。」
「なら…やってみろよ!!」
相手が腰にある光の剣を構えて向かってくる。そして戦いが始まった。最初は相手が攻撃し、ハテナが避けるという展開になっていた。
「オラオラどうしたぁ!避けてばかりじゃ勝てねぇぞ!?」
「・・・・・・」
するどい剣筋がハテナを襲う。それをハテナは顔色一つ変えず、避けていた。それがムカついたらしく相手がさらに剣を振るスピードを上げる。
「だからそれじゃあ勝てねぇって・・・!?」
不意に相手は後ろの下がった。その脇腹の部分の服が破れている。
「…よく今のを避けましたね。」
ハテナの両手には黒い槍がいつの間にかはまっていた。その槍は全体が黒く、まさに漆黒ともいえる槍だった。
「魔槍か・・・」
「デビルランス(悪魔の槍)です。」
「おもしれぇ。さぁ、殺り合おうぜ!!」
剣と槍、二つの武器が交じり合う。一方が攻撃すればもう片方が防ぎ、もう片方が攻撃すれば一方が防ぐ。その繰り返しがずっと・・・それもものすごいスピードで行われていた。
周りで戦っている守備兵と無限の軌道部隊隊員がその戦いに思わず手を止めて見入ってしまっていた。二人が一度距離を取る。
「ぐっ、ハァッハァッ…中々やるな。」
「ゼィッ…ゼィッ…あなたこそ。名前はなんというんですか?」
息を切らしながら二人が話す。相手は武器をおろすと静かに名を名乗った。
「海武国所属花の住民部隊副隊長、エース・ギア。」
「ヤオヨロズ国所属無限の軌道部隊副隊長、ハテナ・ディン。」
互いに名を名乗りあう。それは相手を認めた証。
「アンタがあの有名な無限の軌道部隊の副隊長か。ここが戦場じゃなきゃ良い友になれたかもな。」
「それには同感です。あなたも今まで数々の難任務をこなしてきたという花の住人部隊の副隊長だったとは・・・」
「んじゃ。」
「いざ。」
「「勝負!!」」
再び二人の武器が交じり・・・合わなかった。突如上から降ってきたナイフに止められたのだ。
「誰だ(です)!?」
「戦いはここでおしまいです。ハテナさん、熱くなりすぎですよ。」
「この声は…シルバ様!?」
ハテナがナイフが飛んできた方を見上げると、センカと共にヤオヨロズを支えてきた側近中の側近、シルバ・ハルミがいた。シルバは二人を柔らかな笑顔で見つめている。
「どうしてここに!?」
「ちょっと状況が変わりましてこの戦いを止めにきたんですよ。」
「止めにきただと?そちらから仕掛けてきといて何をフザけた事を・・・・」
確かにエースの言った通りだ。こちらは任務でこの街を攻撃したのにそれを今更やめろとは・・・筋が通らなすぎる。
「少し黙りなさい。本日、海武国とヤオヨロズ国は不戦同盟を結びました。よって今ここで戦闘を再開する者には私が処罰を与えます。」
「やれるもんならやって「やめろエース。」た、隊長!?」
シルバと共に現れた年若い男がエースを止める。隊長ということはあれが花の住人部隊の隊長か。なるほど…あの気、下手をすればウチの隊長と同格、いやそれ以上かもしれない。
「わ、分かりました・・・」
渋々とだが引き下がるエース。だがその顔は何かホッとしたような顔になっていた。
「私達も国に帰りますよ。」
「隊長・・・・」
キャッドが帰りを促す。いつのまにかその周りにはウルフとペケもいた。
「おい、ハテナとかいったな。」
前を見るとエースが手を前に出していた。これはどういう意味なのだろうか?
「中々やるな。だが次は決着をつける。」
「・・・こちらこそ、次は負けませんよ。」
ようやくその手の意味が分かりハテナも手を伸ばした。互いに力強く握手する。
「青春ですねぇ~」
「…おばさんくさいですね。」
「キャッドさん、今月給料半分ね。」
横で何か話しているが気にしないでおこう。というか気にしたらとばっちりがきそうだ。
「じゃあまた会いましょう。」
「今度会う時は戦う時だがな。」
そして二人は別れる。なお、この二人の戦いは兵士達に語り継がれ、無限の軌道部隊と花の住人部隊は世界にさらにその名を轟かす事となった。そしてエースは次に会う時は戦う時だと言ったが・・・
「また会いましたね。」
「というかまさか味方とはな。」
こんな話がされる事となるのはまた別の話。さらにこの二人がいずれ協力することも。これはヤオヨロズの歴史の中の小さな話。本来歴史の中で相よる事のない光と闇。しかしその歴史の中にも語り継がれていない闇と光の友情の話があったという事も忘れないでもらいたい。
ちなみにこの戦い後、キャッドの給料が三分の一にされていたのはまた内緒の話。
「どうしてさらに減ってるんですか!?」
「偶然ですよ。」
完
ヤオヨロズの歴史、最後の一幕が終わりました。これでヤオヨロズの話は終わりです。これを書いていて思ったのはやっぱり人っていいなという事でした。
ネットの中でも人と人は友情を育ぐめる。そしてまたその中から一歩を踏み出せる。皆さんも二人の様に素晴らしい友情に巡り合えますように・・・・