05、社交会の噂
「で?二人はファーストダンスを踊らずに休憩室からそのまま帰宅したと?本当に何もなかったと?」
コクコク。首を縦にふる私は現在新たなる尋問をうけております。尋問官は緑の髪を今日も1つに纏めた知的女子風のモニカ嬢です。今日は突撃取材をされています。ええ、婚約後すぐに私の家に押しかけてきました。まさか自分が取材対象となるとは思いませんでした。
彼女にとって恋バナを追いかけることは常に最前線でなければならないそうです。彼女の取材への意気込みは素晴らしいものがあります。特に人混みに紛れるための努力は師匠と呼ばせていただいております。
モニカはお互いを隠れ蓑にしている作家仲間です。何より例のネタ本のきっかけは元々モニカから借りた本でした。
「嘘でしょう!?何であのタイミング!?というか、なんであなたがナルートって知ってるの?」
私もそう思います。なぜあの時なのか。
「…なんででしょうね。そう、わからないからファーストダンスをあの時やんわり断ったのよ!」
思い出したらだんだん腹が立ってきました。なんであのタイミングだったのかしら。ファーストダンスが終わるまで待てができなかったのかしら。それに、商会にきてからきちんと通すこともできたはずよね。
「ええ。見てたわよ!断るどころかあなた達が寄り添って、仲睦まじく休憩室へ向かうのを!」
「そんな!!逃さないって捕まえられただけなのに!」
「逃さないって!?わぁぉ!あの氷鉄の補佐官様から言われたのよね!?きっとその後は甘いお仕置きが待ってるのよねー。ぐふふ。ごちそうさま!ちょっとネタとして書かせていただくかもしれないわ。あ、そうそう。今は二人を知らない人はいないわよ。氷鉄の補佐官様が自ら近づいた女として、ソフィー、あなた、一躍有名人になっちゃったわよー。怖いわねー女の嫉妬。うん、コレも滾るわ」
逃さないの意味が違います。違わない?ん?甘いお仕置き?女の嫉妬?自分に?私も現実逃避して妄想が勝手にーって、ちっがーう!そもそも誤解ですし。
モニカは紙に色々書き付け始めました。ただ未来は見えているのです。結局別れることを伝えてさっさと熱を冷まさせましょう。本当の婚約なんて、ありえないです。私が彼と結婚なんて、彼も困ってましたしね。
「休憩室へ行った時はもちろん婚約してなかったのよ。ファーストダンスで、しかも王家の夜会だから慌てて翌日に婚約よ。本人もうっかりあのタイミングだったそうで、動揺してたわね。かわいそうだったから落ち着いたら婚約解消する話にほっとしてたわね」
「婚約解消!もったいない!将来有望であなたが作家であることも知ってるのよ!そのまま捕まえちゃいなさいよ。って、あの氷鉄の顔が動揺。面白すぎるんですけど」
ええ、動揺してましたよ。隠そうとしてるとこが面白くて調子に乗ったら美形の威力をまじまじと見せつけられて大変でした。身近なとこに取材対象がいて楽しそうですわね。一時的なことですけど。
「本人も私の調査で焦ってあのタイミングだったと認めてるし、すでに期間限定の婚約で女よけにも助かると話されたわ」
「きゃ!『期間限定の婚約者』ね!そこから愛が始まることもあるのよね!」
「ありえないから。なんと言っても不釣り合いよ、将来有望の美形男子、結婚したい男上位にここ長い間ランクインしてるのよ。一部では男色家の気配もあるくらい。そんな人と本当に婚約なんてありえないわ。女よけになるから助かるなんて言われたけど、もう女子達が黙っていないわ。怖いわね。こちらは完全にもらい事故よ。モニカはどうなの?美形」
「いやよ。好みじゃないもの。二人を見ながら妄想してがっぽり儲けるわ!」
彼女の好みは相変わらず不思議が多いわね。ギャップにもえるらしいけれど、その人ではなく仕草とかだものね。
「モデル料をとるわよ?」
「そこはほら、バレないようにするから。お願い?」
「情報提供はいたしません」
「大丈夫!こっそり取材するから」
こっそり取材。そうでした。彼女は取材活動のパイオニアでした。取材するための努力を惜しまないその姿を見習い、私も取材活動に勤しんでいたらファーストダンスを踊りそうになって、婚約したんでした。
「期間限定の婚約者、いや、偽装結婚?いいわね。次のテーマはこれにするわ!!」
やはり私の思った通り、彼女の琴線に触れたようです。
「そういえば王宮の休憩室はどうだった?」
「あそこはかなりの妄想が働く場所ね。一度は行くことを進めるわ」
「メイドに紛れ込んでみようかしら、やっぱり王宮であれは潜入は難しそうね」
「…そうね」
取材のためなら本当にメイドになりそうです。
今度、本格的にファーストダンスすると聞いたらどんな反応をするかしら、楽しみだわ。
お読みいただきましてありがとうございました。夜にまたアップしまーす。