04、初デートランチ
衆人環視でのランチ、こんなにも苦痛とは思いませんでした。私は普段はほとんど出歩きません。
彼と比べるともちろん私の容姿は人並みなので、周りに溶け込むのを得意としております。私は兄と母似で貴族の中ではかなりの平々凡々の部類の顔です。眼鏡をかけるとさらに野暮ったいスタイルになります。メイドのドリーは私の髪がふわふわなのに艷やかな琥珀色といつも褒めてくださいますが、それくらいでしょうか。今日は初デートということで眼鏡を外されました。ちょっとはマシになったかしら。
一方で結婚したい男の五本の指に入る美形の持ち主、二つ名が付くほどの有名な彼は銀髪をさらりとかきあげて
「昼になると汗ばむ季節になりましたね」
と涼し気に声をかけてきます。流し目にさらされた側にいた女性陣が悲鳴、立ちくらみもありざわついております。私はちょうど反対側におりましたので攻撃は避けられました。
一緒にいるだけでこんなに見られているなんて。
席につくと2つほど離れたテーブルから明らかに私達を見ているご令嬢グループがありました。女子ランチですね。
「ほら、『あのふたり』よ。ファーストダンスはどこかの夜会ですでに踊っていたのかしら?びっくりよねー」
「お相手はダグラス商会の末娘、たしか、爵位持ちで子爵だったかしら?」
「え、一緒にいるあの子?どこが良かったのかしら?正直不釣り合いよね」
「確かに。何故彼女だったのかしら?何人もの美女が彼に打ちのめされていたのよね。どんな女性も同じように断るから男色家の噂も立っていたらしいわよ」
そこのご令嬢方、聞こえておりますわよ。クラフト様も聞こえているんですね。明らかに動揺しております。目が泳いで、さらにコップを降ろす手が震えておりました。吹き出さなかったことに感謝しましょう。さすが『氷鉄の』といわれるだけの表情筋ですわね。コップを「タンッ」と置いたあとは、私と彼の間に氷の溶ける音が響きました。
「…女よけどころか男色家を払拭できたようで良かったですね」
「…ッ、ゴホン」
ちょっとむせましたね。さすがの『氷鉄様』もこの攻撃はかわせなかったようです。ふふふ。楽しいですわ。
私が楽しそうにしていたのが悔しかったのか、自分の武器である顔を近づけてこっそり話し出しました。近い。
「私は男色家ではないし、付き合った女性も過去にいた。この顔だから、断らないでおいたら勝手に振られることも多くて、疲れて最近は全て断っていたんだ。どう?この顔は君好み?」
はい、私好みです。THE、クールビューティー。小説の中でも自分が好きになるのは二枚目サブキャラだったりするのです。間近に見ると悔しいほどきめ細やかな肌ツヤ。女の子もよほどの美人でないと釣り合わないでしょうね。はぁ。こんなに間近に好みの顔があればときめかない女子はおりません。真正面に見つめられたら・・・あぁ。もう、私は今顔が真っ赤かもしれません。頬が熱ります。
「泣きぼくろがあるんだね。ここ」
【―そして頬に手を添えた。彼は微笑みながら彼女のー】
ちょっ、触らないでください!そして現実逃避しようと、何だか官能的な文章が閃きましたわ!!その言葉、いただきますわ!
「お待たせいたしました。本日のパスタランチセット、チキンとポテトのクリームソースです」
現実逃避していたら、お店のお姉さんが助け舟のようにランチセットを運んでくださいました。私には救世主に見えました。ランチタイムのピークも過ぎようとしているところですが、まだ満席のようですからタイミングを見計らう余裕はなかったようです。ありがたや~。それに、こちらは若い貴族だけでなく庶民も使う若者向けのお店ですからね。私も打ち合わせで良く利用してましたが、これからは目立つのでやめたほうがいいかもしれません。いえ、彼が一緒でなければみつからないでしょうか。
テーブルにランチセットが乗ろうとしたところに「…残念」と小さく呟いて頬から手が離れました。
残念?『残念』ってなんですの!?頬の赤みは引かないまま、人気メニューのパスタランチを食べ始めます。
「目立ってるね、私達」
『私達』でなくてあなたです。
そう思いながら睨んでいると、
「しばらくよろしくね」
と苦笑いされながら私を見つめてくるではないですか。
くぅ、くやしい。キラキラのそのお顔には勝てそうにありません。
敗北を覚悟した私は黙々とパスタを完食しました。
お読みいただきましてありがとうございました。お時間ありましたら、★やブックマ、いいねや感想をいただけたら嬉しいです。あっさりと、今夜で完結。またお昼に投稿しますね。ではー