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03、ファーストダンスの後日談

「面目ない。うちのバカ息子がそちらのお嬢さんに婚約の手続きもせずにいきなりファーストダンスを申込んでいたとは」


 氷鉄の補佐官様と呼ばれる方もさすがに突然の婚約手続きに動揺を隠せないようです。表情に変化はほとんどありませんがよく見ると目が泳いでいます。


 私?私は冷静です。ファーストダンスのお誘いから休憩室の流れで想定してましたもの。


「順番が逆ですので驚いておりますが、これもなにかのご縁でしょう?突然で私達もソフィーから聞いておりませんでしたの」

 お義姉様はアルカイック・スマイルで応えます。相変わらず、お兄様と何でこんな美人が結婚したのか謎です。裏がある微笑みも素敵です、お義姉様。


 ファーストダンスから次の日、予想通り婚約手続きの話し合いです。昨夜は帰宅後、兄の嫁と兄から質問攻めに合いました。両親も急ぎ戻るそうですがさすがに明日には戻って来れないそうです。一旦は兄と兄の嫁が対応です。


 兄達には私の作品に関して調べることがあって声をかけられたことを説明しています。


 どうしてタイミングがファーストダンスなんだ。どうしてなんだ!?あの補佐官だろう?何か理由があるはずだ!と糾弾されましたが私にもわかりません。他国で起こった事件が私のアレンドール王国の3巻と同じ内容だったことで、私が情報を何故知っているのかという疑いをかけられての模倣犯ではないかとされた情報はまだ話せないでおります。いつかは露見することではありますが、昨日の話し合いではまだ話さないでほしいとのことでした。


 そしてファーストダンスを仕掛けた張本人は私を見て、目を逸らすということを先程から繰り返しています。『まさか婚約になるとは。君はわかっていたのか?いや、私があのタイミングだったからだな』と心の声が聞こえてきそうです。

 この動揺っぷりを見るに、フォローが必要でしょう。大丈夫です。世間が落ち着いたら婚約解消を話しましょう。動揺している姿がおもしろいのでしばらく観察していたいですが。


 本当は婚約するつもりはなかった。うっかりでファーストダンスを誘った失敗ということは私の兄達は昨日の夜に疑われていました。いや、そうですよね。そして、クラフト様の動揺っぷりとお互いの視線でどうやら義姉は確信したようです。彼が本当に間違いでファーストダンスを誘ったことを。ただ、世間の目から婚約しないわけにはいかないため、私達の婚約を認めている空気です。貴族も相手にした商売ですものね。仕方ありません。婚約ですし、稀に解消や破棄もあると聞きます。その場合は女性はかなり不利な状況と聞きますが、私は婚約を解消してももともと結婚するつもりがなかったから問題ありません。


 つつがなく婚約の書類手続きが終わり両家が挨拶を進める頃にはいつの間にか日も高く昇っておりました。


「いっしょにランチはいかがですか?」

 クラフト様からお誘いいただきました。ええ、お互い話したいことがありますしね。もちろん答えは『はい』一択ですわ。

「もちろん」

 と私もそそくさとこの場から離れようとすると

「あら、初デートかしら?」


 お義姉様とクラフト様のお母様がニマニマと私達を見ています。発言はもちろんお義姉様。


 ()()()()


 違います。もしかしたら、これから作品の売れ行きにも影響する大事な作戦会議です。やはり兄夫婦には今後の商会にも影響があるので、話したほうがよいでしょう。


 昨夜は私が事件と関わりがないということを訴えるだけで精一杯でしたからまずはこちらで話をつけなければなりません。


「クラフト、あまり遅くならないように。いくら適齢期といっても今は注目されておりますからね」


 クラフト様のお母様は釘をさします。()()されてます。そのとおりよね。お店はどこがいいかしら。


「分かってます」


 そう言いながら私の手を掴み逃げるように部屋を出ます。


「あ、一応君の部屋も確認したいんだけど、いい?」

 出てからすぐに玄関へ向かおうとしていたところでしたが、思い出したように彼が止まりました。急に止まれない私は彼の腕にぶつかります。

「…ったぁ」

「あ、ごめん」

「いいわ」


 そうですわね。証拠の本をお見せしましょう。どんな反応になるかしら。


 ランチは少し遅くなりますけどそっちのほうが大事よね。私の潔白を確実なものにするもの。


「こちらでお待ちになって」


 私の部屋へ案内して隣の書庫兼執筆室に例の本をとりにいきます。クラフト様は表情変わらずに姿勢良く私のベッドサイドの横にあるスペースに座ります。

 ここにはファンに手紙を書いたりするときに使う机と椅子があります。さすがに執筆室は見せられませんしね。“ベッド”がありますが致し方ないでしょう。あぁ。ベッド。家でも誤解されてしまうかもしれませんわね。


 それにしても、女の人の部屋に入ったことはないのかしら?

 また目が泳いでいるわ。面白いわね。


「こちらです」


 私が渡した本はもちろん『僕と君の秘密〜お仕置きは夜明けまで』です。クラフト様はちょっと眉間にシワを寄せて受け取ります。

「今、読んでも?」

「ええ、借りていってもよろしくてよ」

 私は彼が上司にこの本を持っていく姿を想像して、口角が上がるのを止められません。って、速読していらっしゃいます。速い。借りる気はないのね、つまらないわ。


 読み終えたクラフト様は私と本を見比べて驚愕の表情です。大きく開いた瞳はアイスブルー?青系の瞳とは思っていましたが、爽やかな色ね。綺麗だわ。さすがの氷鉄の補佐官様も動揺しております。わかりやすく私と本を交互に見て「これ?、キミ?」と呟いております。


「信じられない。…君はこの本からあの作品をすべて妄想で書いたというのか?本当に?どこにもないじゃないか!似ているとしたら、どこだ?どこなんだ?」


「主人公の友達に出てくる子よ。彼が教師ならどうなるかって想像したのよ」


「…どいつだ?脇役なのか?」


 半開きの口でボソボソとつぶやいています。読み直しているようです。彼なりに類似点を探そうとしているのかしら。


「ええ、妄想と言われると腹が立ちますがそうですわ。こうなったら面白いだろうと思ってあらすじを書くのは作者でしょう?他の事件からならその資料を必ず調べますし、史実であることをきちんと載せますわ」


「そうか。色んな意味で衝撃が強いが、とりあえず君が正真正銘のナルート先生で、作品のネタは自作ということは理解した」


「…よかったわ」


 補佐官というだけあって優秀な頭脳を持っていらっしゃるのでしょう。速読も、理解の速さも群を抜いているのでしょうね。


 ー本当になぜファーストダンスを誘ったのかしら。


「ということは発売前に情報が漏れていて、模倣犯の可能性が強いのか」


「事件があったのが発売のひと月前なら可能性はあるわね」


「発売前となると商会の誰かということか?」


「…誰か。可能性はあるわね」


 心配なことに私の親ならありえるのです。出した本人もまさかポロッと話したことが実際の暗殺に関係するとは思っていなかったでしょうが。先行して本を渡すことで取引を有利に進めるツールとして使うこともするでしょうし。


「今後の作家活動にも影響がでるので、やはり私の家族には話します。こちらで発売前に渡された人のリストも調査しますわ。あと、この婚約はこの事件が落ち着いたら、解消よね?もともと間違ってファーストダンスの時に尋問しようとしたのが原因ですし」


「…ああ。すまなかった。しかし、君に婚約者がいなくてよかった。あのタイミングで君も困っただろう?本当に申し訳ない」


 そのとおり!そしてクラフト様にも決まった方がいなくて良かったわ。

「…噂をされなくなったら、事件が解決したら、婚約解消しましょう。私は結婚するつもりはなかったので別に解消されても問題ないですわ」


「…そうか、すまない。恩に着る。わびと言っては何だが、今度はファーストダンスをちゃんと踊ろうか。世間が注目しているうちに済ませてしまおうと思っているんだが、どうか?」


 本音が漏れてます。というか、この人女性とお付き合いしたことがあるのかしら。正直に話し過ぎていると思います。面白いからいいけど。


「わかりました。期間限定の婚約者ですね。よろしくおねがいします」


 取材魂が疼きます。『期間限定の婚約者』とか、私の友人に話したら興奮して鼻血が出るかもしれないわね。


「ありがとう。あぁ。私の女よけとしても助かりそうだ」


「…本音が出すぎですわ。男の方が好きなんですの?」


「いや、それはない。が、そういう世界もあると知ったよ」


 言いながら私に本を返す彼は、遠くを見つめてお疲れの様です。ふふふ。私はこの顔を見れたことで彼の行動の溜飲を下げることにしましょう。

次はお昼に投稿です。作品を見つけてくれて、読んでくれて、感謝します!


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