11、エピローグ
王太子殿下の婚約発表披露を兼ねた舞踏会はあのクラフトと私が初めて踊った日から6か月が過ぎておりました。婚約者筆頭は取材をした公爵家の令嬢のようです。
前回同様、今回の夜会は欠席できません。ああ、前も行きたくないと思っておりました。気持ちを切り替えて取材しようと出席しました。それでクラフトにファーストダンスを誘われて、お断りしようとやんわり逃げたら休憩室へ連れ込まれたのよね。会いたくないけれど、探してしまいます。
厳かにファーストダンスの音楽が流れ始めます。注目は王太子殿下が誰をお誘いするか。予想通り公爵家の令嬢でしょうか。注目する中、伯爵令嬢と手を取りにこやかにダンスホールへ向かっていきました。公爵家の令嬢は悔しがっているかと思いきや、こちらは王太子の側近である騎士様と仲良くダンスホールへ向かいました。確か、取り巻きのひとりよね。匿っていたのかしら。素敵ね。
「今宵のパートナーとして、僭越ながら、私と踊っていただけますか?あの日のやり直しをしたいのです」
振り返るとあの日と同じようにお誘いする姿が。え、時間が巻き戻りましたか?いえ、
「クラフト、様。え、私?いえ、もう、婚約者の期間は」
「君が好きだ。婚約は解消してない。踊ってくれる?お願い」
婚約解消してない?嘘でしょう。私、好きでいていいのかしら?嬉しくて泣きそうになります。さよならしたはずなのに忘れられなくて、距離をおこうと思ってました。冷たくされたくないもの。
でも、今は、捨てられそうな子犬みたいな目はなんでしょう。ギャップ萌えを狙って来てるのでしょうか、その澄んだ瞳が可愛くて、愛おしくて。手をとること以外はできそうにありません。
「ソフィ。婚約解消したくない。ファーストダンスをあんなふうにスタートさせた私が言うのは卑怯かもしれない。でも、失いたくないんだ。お願いだ。…レディ、ファーストダンスを私と踊っていただけませんか?」
「…はい」
どうやら私は彼のお願いにはめっきり弱いようです。今日の踊る私達は目立ちません。話題は王太子殿下ですものね。中心で華やかに踊っております。
「…実は君に言われた通り、婚約解消の用紙は持っていったんだ。そしたら君の父が反対して破り捨てたんだ。「自覚が足りん!本当にそれでいいのか??」ってね。それから、君の父と飲みに行ったよ。全部私の気持ち周りにはバレていたみたいだ。宰相にも無自覚にも程があるって窘められたよ」
私の気持ちは気づいていなかったのかしら。
「自覚してからは君に会いたくて、でもどんな理由をつけてソフィーに会いにいけばいいのかわからなくて」
「私は、会いたくなかった。次に会ったら他人として他の令嬢と同じように冷たくあしらわれると思うと絶対にショックで立ち直れない自信があったから。うっかりはじまった期間限定の婚約だからって虚勢を張って思い出にすることしか考えていなかったわ」
「!ソフィーにそんなことしないよ」
踊りながらターンを決めて抱きしめます。
「ええ、冷たくあしらわれたら、ショックで泣き出すくらいはクラフトが好きよ」
「…嬉しい。好きな人と踊るファーストダンスがこんなに楽しいなんて。すごいな。結婚しよう」
ちょっと結婚はまだ早いんじゃなくて?
『ファーストダンスから始まる恋』というタイトルで友人がベストセラー作家になることを二人はまだ知らない。
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