表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2月22日 猫の日

作者: blueberry

記念日シリーズの2月22日編です。

 俺の家に猫がやってくるようになった。白い毛並みの、美しい猫、通称美猫だ。どこかの野良猫なのだろうか、首輪はしていなかった。見かけたことのない猫だったけれど、姉が猫好きなため、来たら迎え入れるようになった。

「あぁ~ん可愛い❤」

 だが美猫は姉の腕をすり抜けていく。決まって、やってくるのは、俺の腕の中だ。姉はしゅんとうなだれながら、俺を羨ましそうに眺めている。それが日常となっていた。


「あぁ・・・・」

 今日も疲れていた。部活などのストレスが原因だ。勉強は怠るタイプだからさほどストレスにはならない。俺はバッグを放り投げ、大の字になって寝転ぶ。案の定、今日も美猫は来ていた。猫は薄情と聞くけれど、この美猫は、きゅるんと黄色い瞳を俺に向け、俺の膝にちょこんと座る。

「よしよし。俺が恋しかったんだな」

 俺が撫でると、美猫は気持ちよさそうに眇を見せる。ストレスが緩和されていき、むしゃくしゃしていた感覚も消え去っていた。

 姉が帰って来たが、今日も相手にされていなかった。夕飯の時間になると、美猫は決まって家から出て行く。どこで夜を明かしているのかは知らないが、いつも来ているからどこかでは寝ているのだろう。


 今日は部活が休みの日だ。俺はバッグを背負い、ある場所へ向かう。

「失礼します。えと、山崎綾奈さんのお見舞いなのですが」

「はい。綾奈さんですね。いらっしゃいますよ~」

 看護師さんに案内され、俺は綾奈の元へ向かう。

 山崎綾奈。俺の幼稚園からの幼馴染で、いろいろとお世話になっている。小学校、中学校、高校も一緒という奇遇を歩んでいる。性格は激しいが、綾奈は生まれつきの心臓病で、現在入院中だ。何度か入院経験があり、今までずっとあの性格で持ちこたえてきたから、今回も大丈夫だろう・・・と勝手に思っている。

「綾奈~」

 俺が呼ぶと、綾奈は笑顔を浮かべて俺の方を見た。綾奈に渡すプリントをベッドの上に乗せ、その一つ一つを細かく説明した。綾奈は珍しく黙って聞いてくれていた。

「今日、テニス部は休み?」

「おう。いつもはあの顧問ウザいから、休ましてもらえなくて」

「あー、あの顧問ウザいもんね」

 綾奈の笑顔と、口調が強い所は、昔から変わらない。変わったところと言えば、前よりも若干大人っぽくなったところ、だろうか。

 幼い頃は、俺のもとによく来て、くっついていたものだ。たくさんケンカもしたけれど。

 あの美猫と、よく似ている。そう思い立ち、俺は綾奈に猫の話を持ち出した。

「そういえば綾奈、最近俺の家に猫が来るんだよ」

 綾奈は一瞬大きく目を見開いた。

「えーいいじゃん。どんな猫?」

「白い毛並みの、美しい猫なんだ」

 俺が猫の話をマシンガンのようにするのを、綾奈は「うんうん!」と頷きながら聞いてくれていた。そのノリも変わらない。綾奈の最近仲間の患者さんと話したこととか、病院のご飯が美味しいとか、そういう話も、俺はノリで頷いて聞いていた。


 翌日は、たいへんイライラする出来事があった。

 テニス部の顧問が急に怒り出し、部活放棄。一部のちゃんとやらない輩の所為だ。俺は割と真面目に取り組んでいたつもりだったので、かなり頭に来てしまった。だから、家に帰っても平常心を保てなかった。

 それでも美猫は来た。俺の膝の上に、瞳を俺に向けて。でも俺は。

「お前は吞気でいいな」

 そう言い捨ててしまった。言葉がわかるのだろうか、美猫は悲しそうな眼をした。

 その眼が、幼い頃、ケンカした時の綾奈の眼に酷く似ていた。

 俺は言葉につまる。そして向こうを向く。自分の部屋にこもり、頭を抱えてしまう。

 結局その日は、美猫とふれあえることなく、一日が終わった。


 その日以来、美猫が来ることはなくなった。


 綾奈が死んだのも、その日だったらしい。


 

 



最後までお読みいただけましたか?

自分でも書いてて悲しくなってきました。

またまた、記念日シリーズを書いていこうと思います。

応援していただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! 綾奈ちゃん実は美猫? すごくいい設定だなって思いました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ