2月22日 猫の日
記念日シリーズの2月22日編です。
俺の家に猫がやってくるようになった。白い毛並みの、美しい猫、通称美猫だ。どこかの野良猫なのだろうか、首輪はしていなかった。見かけたことのない猫だったけれど、姉が猫好きなため、来たら迎え入れるようになった。
「あぁ~ん可愛い❤」
だが美猫は姉の腕をすり抜けていく。決まって、やってくるのは、俺の腕の中だ。姉はしゅんとうなだれながら、俺を羨ましそうに眺めている。それが日常となっていた。
「あぁ・・・・」
今日も疲れていた。部活などのストレスが原因だ。勉強は怠るタイプだからさほどストレスにはならない。俺はバッグを放り投げ、大の字になって寝転ぶ。案の定、今日も美猫は来ていた。猫は薄情と聞くけれど、この美猫は、きゅるんと黄色い瞳を俺に向け、俺の膝にちょこんと座る。
「よしよし。俺が恋しかったんだな」
俺が撫でると、美猫は気持ちよさそうに眇を見せる。ストレスが緩和されていき、むしゃくしゃしていた感覚も消え去っていた。
姉が帰って来たが、今日も相手にされていなかった。夕飯の時間になると、美猫は決まって家から出て行く。どこで夜を明かしているのかは知らないが、いつも来ているからどこかでは寝ているのだろう。
今日は部活が休みの日だ。俺はバッグを背負い、ある場所へ向かう。
「失礼します。えと、山崎綾奈さんのお見舞いなのですが」
「はい。綾奈さんですね。いらっしゃいますよ~」
看護師さんに案内され、俺は綾奈の元へ向かう。
山崎綾奈。俺の幼稚園からの幼馴染で、いろいろとお世話になっている。小学校、中学校、高校も一緒という奇遇を歩んでいる。性格は激しいが、綾奈は生まれつきの心臓病で、現在入院中だ。何度か入院経験があり、今までずっとあの性格で持ちこたえてきたから、今回も大丈夫だろう・・・と勝手に思っている。
「綾奈~」
俺が呼ぶと、綾奈は笑顔を浮かべて俺の方を見た。綾奈に渡すプリントをベッドの上に乗せ、その一つ一つを細かく説明した。綾奈は珍しく黙って聞いてくれていた。
「今日、テニス部は休み?」
「おう。いつもはあの顧問ウザいから、休ましてもらえなくて」
「あー、あの顧問ウザいもんね」
綾奈の笑顔と、口調が強い所は、昔から変わらない。変わったところと言えば、前よりも若干大人っぽくなったところ、だろうか。
幼い頃は、俺のもとによく来て、くっついていたものだ。たくさんケンカもしたけれど。
あの美猫と、よく似ている。そう思い立ち、俺は綾奈に猫の話を持ち出した。
「そういえば綾奈、最近俺の家に猫が来るんだよ」
綾奈は一瞬大きく目を見開いた。
「えーいいじゃん。どんな猫?」
「白い毛並みの、美しい猫なんだ」
俺が猫の話をマシンガンのようにするのを、綾奈は「うんうん!」と頷きながら聞いてくれていた。そのノリも変わらない。綾奈の最近仲間の患者さんと話したこととか、病院のご飯が美味しいとか、そういう話も、俺はノリで頷いて聞いていた。
翌日は、たいへんイライラする出来事があった。
テニス部の顧問が急に怒り出し、部活放棄。一部のちゃんとやらない輩の所為だ。俺は割と真面目に取り組んでいたつもりだったので、かなり頭に来てしまった。だから、家に帰っても平常心を保てなかった。
それでも美猫は来た。俺の膝の上に、瞳を俺に向けて。でも俺は。
「お前は吞気でいいな」
そう言い捨ててしまった。言葉がわかるのだろうか、美猫は悲しそうな眼をした。
その眼が、幼い頃、ケンカした時の綾奈の眼に酷く似ていた。
俺は言葉につまる。そして向こうを向く。自分の部屋にこもり、頭を抱えてしまう。
結局その日は、美猫とふれあえることなく、一日が終わった。
その日以来、美猫が来ることはなくなった。
綾奈が死んだのも、その日だったらしい。
最後までお読みいただけましたか?
自分でも書いてて悲しくなってきました。
またまた、記念日シリーズを書いていこうと思います。
応援していただけたら嬉しいです。