第8話 同世代たち Generations.
「クズ共腕立て伏せあと700回ー!!」
教官の声が大雨のフィールド(教練場)に響いた。
「嘘だろ!?あのタコが武術の達人?」
靴下男がサナダ(真空男)に聞いた。
「あの呼吸、間合いの取り方、身のこなし…まぁ間違いないですね。」
サナダは腕立てのスピードを落とさずに話した。
靴下男も腕立て伏せをまるで歩く様にナチュラルにこなしながら言った。
「…勝てるかい?サナダさん。」
サナダは汗まみれ、関節ガクガクで腕立てをしている高齢者丸出しの吾郎に目をやってから、言った。
「私があんな方に負ける訳がないでしょう?少々油断しただけですよ。」
靴下男は安心した表情を浮かべて言った。
「そ、そうだよな!現役時代のあんたが格闘家を毎回半殺しにしていく動画を良く観てたよ。あれは凄かったな。闘い楽しみにしてるぜ。サナダさん。」
サナダはフッと鼻で笑って言った。
「半殺しを越えたら…ごめんなさい。」
ビィーー!(ホイッスルの音)
「腕立てやめーい!!
1100 :エサの時間だ!」
今度は全員腕立て伏せの姿勢からの、兵舎への猛ダッシュだ。昼食はいつも1人分少なく作られており、必ず誰かが昼に有りつけないのだ。
※ ※ 本日の食堂内 ※ ※
靴下男は何となく吾郎に目が行った。吾郎は昼食を手に入れ、佐藤達のテーブルに向かおうとしていた。
その時、歩いて兵舎に現れた最後の兵士が吾郎のプレートをもぎ取った。
「お前の居場所はもう無いんだな。これは実は俺のランチなんだよ。」
昼食を吾郎から奪った男がその場から離れようとした時、そこに誰かが立ち塞がった。
「やめろ。今のはフェアじゃないぞ。」
靴下男だった。
「このタコ…いや前田に昼食を返してやれ。お前が最後の1人だったし、こいつはまだ軍に居る。欲しけりゃ俺のをくれてやる。ほら、持っていけ。」
2m程もある靴下男に凄まれ、ランチ泥棒は従った。
靴下男は昼食のプレートを吾郎のテーブルの目の前にぶっきらぼうに置いて口を開いた。
「お前…武術が出来るのか?
…そうか、凄いな。何かを極めるってのは大変なんだろうな…。ならしっかり喰っておけ。俺はお前に辞めて欲しいと今でも思ってはいるが、別に死んで欲しいとは思わん。
…ど、同世代だからな(赤面)。」
吾郎はポカンと間の抜けた表情で礼を言うタイミングを外した。
「ああ、そう。…いや!え!?あ、ありがとうございます、えと…あ、檜山さんですか。はい!まだまだ私ら前期高齢者!先は長いですよ!エッコラショって共に頑張りましょー!」
こんどは檜山(靴下男)がポカンとした。
こんな阿呆な男にはこれまで会ったことがないといった表情だった。
思わず少し笑ってしまった。
「おかしな奴だな全く。」
檜山は少し吾郎を気に入った。
「…この前はすまなかったな。」
ーそうして1日また1日と過ぎて行き、
ついに決闘の日の朝を迎えた。
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(通信終わり)
GPS -東京都台東区浅草雷門跡地より。