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第4話 初老のタコ野郎 The elderly noob.


東京都練馬区北町4丁目

 旧・陸上自衛隊 練馬駐屯地/

 現・新日本軍 Nerima Boot Camp.


ここで、軍入隊者を一人前の兵士にすべく、心構え・体力・戦闘術・軍事学などありとあらゆるスキルを修得させる。


また、最終試験の結果によりどの部隊の配属になるのかが決まる。



訓練兵の1日


朝 0330(3:30) 緊張と疲労で目覚める。 

  0400 起床のサイレンと教官の怒鳴り声

  0405 整列と点呼 

  0410 身支度を整える

  0420 兵舎の掃除

  0430 練兵場内をジョギングと行進

  0600 朝食

  0700 授業

  1000 体力作りと訓練。

  1100 昼食

  1200 戦闘術と格闘技

  1600 兵舎に帰る

  1700 夕食

  1800 入浴(シャワーのみ)

  1815 銃の整備(分解-磨き-組立-調整)

  1900 自由時間

  2000 消灯-就寝


 今日もこんな1日が始まる。



0400(4時00分) 「起きろ!このゴミ共が!!そのヨボヨボのケツをケツ税で買った御国のベッドから離せ!!」


 同時に、パトカーのようなけたたましい起床のサイレンが鳴る。


 (小声)「言われなくても起きてましたよ。アイタタ…。(身体中痛くてろくに眠れないって。)。」

  つい吾郎はボヤいてしまった。


「!今、話したのは誰だ?」


老人とは思えない、堂々とした肩幅と筋骨隆々の教官が大声で言った。


「聞こえなかったか? 

…そうか。ではこの兵舎内の800台の監視カメラ全てをチェックして探そうか?

ここで名乗り出たら罰は軽くしてやる。しかし…。」


「じ、自分でありまぁす!」

 重圧から思わず吾郎は列から一歩前に出て叫んだ。


「…ほう。貴様は誰だ?」

 面前まで来た教官は言った。


「前田吾郎であります!!」


 次の瞬間、教官の重い右拳が吾郎の腹を大きく響かせた。


「げへぇ!!」


…なんて力なんだぁ…。


「違うだろうが?…お前は新日本軍兵士だ。さっきお前が口にしたのは識別コードだ。お前らが死んだ時に棺桶に間違えずに入れる為のな。」


教官の拳はまだ吾郎の溝落ちを刺したままだった。


教官は話続けた。

「だが新日本軍兵士は無敵であーる!!

日本人は戦場では死ななーい!

だから識別コードを軽々と言うな!!

 ー今度名前を聞かれたら

“自分は新日本軍兵士であります!”と言うんだ!わかったか!?わかったら言え!!」


「わぁ、っかりました。わたしは

 しん日ほん軍へい士でありまぁす。」


「声が小さい!!!」


「“新日本軍兵士“でありまあす!!。」


教官は拳を引き、吾郎はその場にうずくまった。


教官はすぐさま周りを見渡し、叫んだ。

「何をしている!?貴様らクズ共全員外で行進ーー!!

 あと、このタコ野郎を医務室に運んでやれ!

 当分は訓練に戻れないだろうからな!!」


「…だ、大丈夫であります!教官どの!!

  私…皆とがんばら…せてください。」

 吾郎は息絶え絶えに起き上がり、言った。


「…お前はバカか?…2-3日眠っていろ。」


吾郎は話した。

「ここで遅れを取っては…いかんので…のであります。皆とごうりゅう…します。」


教官は少し腑に落ちない様子で応えた。

「…では勝手にしろ。急げ!駆け足ー!!」


「は、はひ。…お手加減どうもありがとうございました…。」

 千鳥足の吾郎が兵舎を後にした。


ー残された教官は自身の右手を見つめた。

 (…手加減だと?俺はみせしめの為に急所を突いたのだ。クッ…とうとう私も本当に老いぼれてしまったのか…?)


 教官は鼻で少し溜息をつき、グラウンドに向かった。



0415(4時15分) 行進開始


行進とは名ばかりの、

整列した状態での1km/4min.のランニングだ。脱落者も多い。吾郎も長らくその1人だった。

しかし入隊してしばらくした頃からは余り遅れる事もなくなんとか最後まで走れる様になっていた。


 …徹底した軍の栄養管理と健康医学は素晴らしい。高齢者の身体を40-50年程若返らせると言われているのだ。


 しかし彼ら初老特有のひねくれた心が真っ直ぐに戻る者はごく僅かだった。


「…なぁあの前田ってタコのせいで20分も長く行進とはな。」

「あいつぁ新日本軍の恥でしかねぇべ。」

「どうする?いっちょ畳んで俺らのパシリにでもするか?」

 

 行進中の誰彼の会話が吾郎の耳にも入ってくる。


 その時1人の背の低い男が声を掛けてきた。

 「…なぁ、ゴロちゃん。あんたマズいよ。ちょっとヤラかしが過ぎだよ。これじゃ敵じゃなくて先に仲間にやられちまうよ?」


 柴又の魚屋の佐藤だった。

 吾郎の自宅からわりと近所という事で、入隊直後から親しくしていた。


 吾郎は眉を八の字にして言った。

「仕方ないよ。俺、こんなだもん。だから教練に付いて行けてるだけでいいんだ。それ以外は贅沢だよ。やっぱいつかはかあちゃんに楽させたいからね。」


 「ゴロちゃんあんたって…、江戸っ子だねぇ。純だ。」佐藤は同情混じりに言った。


 「そんなの、サトちゃんもだろ? まぁ俺らみんな同世代なんだ。そのうちちゃんと話せば仲良くなれるってさ。」


…訓練から3ヶ月、いつも間にか前期高齢者(新日本軍第37期生)全員が、ほぼ2時間全力疾走しながらもこんな内密な会話を出来る様になっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

…ごめん、ちょっと中断しなきゃいけない。

通信妨害を受けてね。特殊なパスを通ってたのにおかしいな?

安全な通信ルートを確保し次第また続きを伝えるよ。


ではまた。


2136年6月11日


東京都足立区リトルムンバイコミュニティ内より


著者













  

  


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