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第13話 謳われぬ英雄達   Unsung heroes.


『…私が負けました。』


判定員がマエダ側に高らかに旗を上げる。


判定員) 「勝負あり!勝者、訓練兵3746番、マエダ・ゴロウ!!」


 1635:決闘終了 勝者 3746番 前田 吾郎


  (木戸・佐藤・兵士達)

 「ウオーーー!!!や、やったー!!マエダ!マエダ!マエダ!マエダ…。」


 〜阿波踊りの大合唱〜


 サナダとマエダは余力を振り絞って立ち上がり…吹く風に倒れそうになりながらお互いに対峙した。



 マエダ) 「え…何?私…。」


 サナダ) 「言った通りです。…私の身体はもう動かない(笑)。私が編み出したとは言え、あんな馬鹿げたキック1発で(苦笑)…完敗です。」


 マエダ) 「…いえ!いえいえ!!そんな筈ないでしょう?取り消しましょう!取り消しましょうよ!!私は除隊して貴方の父を探すんです。…こんな形で親子の話が終わって良い訳がない!私が…」


 サナダ) 「違うんです(笑)。それはまたいつか必ず…でも、それよりも私にはもっとやりたい事が出来たんです。



 私は貴方と戦友になりたいんです。



 この…メチャクチャな世の中を、



 共に…戦い、

 共に…

 生き抜きたいんです。」




 マエダ) 「…そんな、サナダさん(泣)。

 …私みたいな、

 …それが私でいいんでしょうか? 

  私…なんかで…(笑)。


 ゴホッ!!」


 サナダ) 「(笑)。

 グフッ!!」



 …サナダとマエダは、それぞれお互いの肩にもたれ掛かり合いながら、立ったまま気絶した。


 ー4時間を超える決闘は太陽を赤く傾かせ、

 死闘を生き延びた“鬼”と“臆病者”に、

 互いを支え合う形で、リング上に“人”という長い影を描かせた。

 

 そこにはもう“鬼”も“臆病者”も居なかった。



 木戸) 「た、担架じゃあー!!早く!!」


 佐藤) 「み、皆さん手伝ってー!!」


 (兵士達) 「ま、前田ぁー!!」

     「真田さん!しっかり!!」

     「(泣)俺らの誇りじゃぁ!」

     「同僚ども!!バンザーイ!!」

 

 その日は就寝時間まで兵舎内では、主役2人そっちのけのお祭り騒ぎが続いた。


 ー教官達も決闘の習わし(決闘の処理後は自由時間)に則ってその夜は兵士達の好きにさせた。



 診断結果:

 真田 海衆:背骨及び左腕、肋骨複雑骨折

 ー全治4ヶ月


 前田 吾郎:頭部、顔面及び全身複雑骨折

 ー全治4.5ヶ月


 これによって、2人は同期よりも1年遅れて訓練所を卒業する事になった。



 ※ 決闘から1週間後  ※


 ー医療室にて


 マエダ) 「あ、木戸さん。ミカン取ってください。ちゃんと甘いの選んで下さいよ?さっきのはちょっと酸っぱくて…」


 木戸) 「…はいよ。」


 マエダ) 「あ、携帯とってくれます?」


 木戸) 「いっぺんに言えよ!!おまはんちょっと調子に乗って…」


 マエダ)「あ!あ! 重傷者に向かってなんて事言うんですか!? 酷いですよねぇ!ねぇ、檜山さん?」


 檜山) 「お、おう。」


 サナダ) 「佐藤さん…。アナタ親戚何人居るんですか? …もう50枚はサインしましたよ?まさか売って…。」


 佐藤) 「べ!べらんめぇ!! 江戸っ子にゃ親類が多いんだよ!後50枚、さっさと書いちまってくれ。」


 木戸) (ボソッ)「…商魂逞しいのぉ。」


 佐藤) 「言っておくけど、チーム吾郎に入れてやったのは俺だかんね!?俺がゴロちゃんの最初の友人だからね!!」


 檜山) 「お前、真田さんにそんな事言って知らないぞ? 真田さんは指先だけもで2m以内のものは破壊出来るんだぞ?」


 佐藤) 「何!? えと、嘘?これは…、違うんだ。その、」


 サナダ) 「…檜山さんの冗談ですよ。」


 佐藤) 「えぇっ!? もぉー!!!」

 

 (一同) 「(笑)。」


 木戸) 「しっかし1年も卒業遅れるとはのう…。ま、補講に半年掛かるんじゃ、仕方ないがの。」


 佐藤) 「木戸ちゃん!俺たち、戦場では1年先輩になるんだよな!?

 ーゴロちゃん、絶対俺のいる部隊に来いよ!色々教えてやっから!! 可愛い後輩にな(笑)。」


 マエダ) 「もう先輩面かよ!…勝てねぇなぁ。サトちゃんには(笑)。」


 檜山) 「(笑)…しかし戦場は益々拡大していて…これからは世界中に飛ばされるぞ。

 だから一緒に戦える確率はごく僅かだろうな…。」


 サナダ) 「佐藤さんの言うように同期とは言え私達は1年戦場経験がズレる訳ですしね。」


 マエダ) 「…大丈夫ですよ。少なくとも私達は1年以上ここで過酷な訓練を共に乗り越えて来て…、今はもう皆さんとは家族です。

 だから何があっても…絶対大丈夫です(笑)。」


 (佐藤・木戸・真田・檜山)

 「…そうだな(笑)。」



 ※ 一 年 後   ※


 教官) 「サナダ、本当にいいんだな? お前の成績なら特殊作戦部にも入れるんだぞ?」


 サナダ) 「私は…あいつと同じ部隊がいいんです。アイツ…マエダは…いつか世界を変えてくれる気がするんです。その日まで私は…彼を守り、そして必要なら盾にでもなる覚悟です…。」


 教官) 「そうか…。意志は尊重する。それが貴様の決断ならな。では行けー!!」


 「はっ!」

 サナダは敬礼し、教官室を出た。


 ー今日は訓練所最終日だ。

 各々の配属/所属部隊が発表される。


 マエダ) 「わ! 俺は陸軍第421部隊!!

 檜山さんの居る隊だぁ!! 良かったぁ! カイちゃん(サナダ)は?」


 サナダ) 「…偶然ですね。私もゴロさんと同じ陸軍421です。」


 マエダ) 「やったー!!これで戦友ですね!! カイちゃんが味方なんて…もう怖い者なしです!!!」



 サナダ) 「怖いです。」



 マエダ)「えっ?」




 サナダ) 「戦場。 …私は怖いです。」




 同期達に遅れる事1年、新兵・真田/前田は、前哨基地のあるシンガポールに降り立った。




---------------------

 …こんな感じでどこにでも居そうな市民達はイデオロギーと不安を抱えた戦闘員に変わっていく訳だ。

 しかし彼らの、ーあぁ、とうとう来たか…。

 実は…私はもう随分前、マエダに命を救われた数多い人達の中の1人なんだ。だから借りがあってね。

 …もちろん私はこれからも通信の続く限りマエダや未来の物語を君達へ伝承するつもりだ。

 …しかし私は去る。私はこれから爆弾を抱えて都内のある施設に飛び込むのだ。いや、君達にとって、私は私だ。物語を伝える者がまた他の私に取って代わるだけなのだから。だから心配は無用だ。なぜならこの書記を送り始めてから私はもう既に4度替わっているが、君達のうちの何人がそれにお気付きだっただろうか?

 信念を貫き、真実を伝えれさえすれば私は私なんだ。

 

そういう誠実な”私”が集まってこそ素晴らしい国家が築けるのだから。


 ではまた。


 …さようなら。


(通信終了)


第一部 終

最後までお読みいただきありがとうございます。

第2部もまもなく始まります。

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