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第10話  死 闘 The Game of Death.

「では両名!リング上へ。」

 ジャッジ(判定員)が叫んだ。


 格闘場の対角線上にサナダと吾郎が姿を見せた。


 唸る兵士たち。


 「来たーー!!レジェンド!」

 「マスターオブキル復活!」

 「オレの青春ー!スゲー!」

 「サナダ!サナダ!サナダ!サナダ!…」



 ジャッジ:「クッソ共ー!静粛ー!! 

 …よろしい。これより、訓令兵第3721番サナダ・カイシュウと第3746番マエダ・ゴロウの


 決闘を始める!!」


(唸る兵士たち)

 

 「戦闘ルールはたった一つ!

 貴様等である!軍規では立ち合う兵士達が認めればリング上では何をしても構わないとしている!

 そして勝敗はどちらかが戦闘不能になる事。それはジャッジが判断する。

 決着後の取り決めに関しては全員協力をし速やかに行う事。

 ー最後に! 決闘は新日本軍の決闘実記にも記録される。即ちここに居る全員が決闘の結果に責任を負っている事を肝に銘じる様に!尚、故意に神聖なる決闘を汚す者は除隊又は殺処分の対象となり…。」


 〜3分スキップ〜


 「では、健闘を!両者スクエアの中央へ!!」


(兵士たちの唸り・叫び)


 サナダと吾郎はリング中心で向かい合った。


 ジャッジ:「拳を見せろ。…良し、各サイドに戻って3カウントしたら決闘開始だ。わかったな? …よし行け。」


各自コーナーポストへ。

 

 3…2…1


 では始めよ!


兵士達(ウオーーー!!)


1225:決闘開始


 サナダ) 勢い良くリング中央に飛び出す。


 マエダ) 両手を平行に、右腕をやや高く上げながら膝を使い下半身のみで上下に揺れ始める。


 サナダ) マエダの動きに反応、突進を止める。


 兵士達)「ギャハハハ!なんでェあのタコ!あれ何?祭り!? 超ダセーwサナダさん早く殺って下せぇ!!」



 マエダ) 上下運動を繰り返しながらサナダとの間合いを徐々に詰めて行く。


 サナダ) (…?なんだこの奇妙な動きは。これでは隙が無いのか隙だらけなのかが…。)

 ー様子見の為の一発目、右のミドルキックを放つ。


 マエダ) 膝を曲げた低い姿勢から左肘をミドルキックに上手く合わせる。肘がカウンターとなりサナダの右足を強打。


 サナダ)「ウッ!!」


 佐藤)「上手い!吾郎ちゃん!!、木戸ちゃんの作戦大当たりだね!奴さん凄い集中力だよ。」


 木戸) 「…まだまだ始まったばかりじゃき、なんとものぉ。汗)」


 サナダ) 被弾した右足を2-3回軽く空で伸ばしながら仕切り直す。


 マエダ) 再びジリジリと間合いを詰める。


 サナダ) (…不気味な奴め。しかし今の肘は危なかったですね。ほんの数ミリズレていたら骨折していた…?いや上手く出来過ぎだ。では、これなら…)

 ー思い切ってマエダの間合いに飛び込み、彼の下半身の動きが止まる様な顔面パンチの連打。


 (兵士達) 「オオー!!」


 佐藤) 「ヒエーッ!」


 マエダ) サナダのパンチに合わせて交互に両腕をパッと花を咲かせるように上げ下げを繰り返し、しっかりと顔面ガード。次に両腕を同時に上げサナダの首にモンゴリアン・チョップを見舞う。(敵の首の付け根に両手刀を振り下ろす打撃。蒙古の怪人/キラー・カーンが得意とした。)


 サナダ) 「がはぁ!」


 (兵士達)

 「おいおい…なんかおかしくないか? タコの攻撃…効いてるのか!?」


 サナダ) (ッつ。なるほどね。…やっぱりガチの隠れ戦闘術でしたか。…ではこれで行きましょう。)

 

 ー動きをマエダに合わせ、モハメド・アリ・スタイルばりのボクシング・ステップを踏み始めた。


 マエダ) (ありゃあ一体…?いやいや、集中集中…)


 ーそのさまはリング上でなければ西洋と東洋のダンスバトルにも見えた。小気味良くステップを取るサナダ、膝を曲げ伸ばし摺り足のマエダ、異質ともいえる決闘だった。しかし2人の間には何者も入り込む隙がなかった。


 “サナダの恫喝で獣の様な『動』の攻撃を、マエダの絢爛でしなやかな『静』の守備で捌く”。こんな攻防がしばらく続いた。 


 ー戦闘芸術(Martial Arts)というものが本当に有るならば、正にこれがそうだった。


  

 (兵士達)

 「なぁ…あのタコ…や、マエダって、なんかやっぱり…強…くないか?」


 「サナダさんが手抜いてるんじゃないよな?」


 「今接触した時の音凄くなかった!? わお!今のサナダさんの動き現役並みじゃね!?」


 「いや〜今の、前田良くいなしたなぁ!あの前蹴り普通なら喰らって腹じゃなく背骨イってたよな。」


 5:5の均衡状態が続いた。

 

 サナダ) 「あぁ鬱陶しいですねェ!!アナタ。実に鬱陶しい!」

 ー腕と脚による攻撃が全て遮られ、剛を煮やした彼は右肩からの“猪突猛進”タックルをマエダに見舞った。


 佐藤) 「ウヒャー!!」


 マエダ) 飛んで来たサナダの全体重を、両腕の花びらで優しく包み込む様な形で抱きかかえ、半身を捻りながらサナダを倒した。


 (兵士達) 「ウオーー!!!」


柔道なら『一本!』と言いたいところだが、これは決闘なのだ。反撃を警戒したマエダは半歩下がった。



 (兵士達)「アイツ…あのタコやばくね!?」


 「凄ェあんなに強かったんだ…。弄って危なかったんだな俺ら…。」


 「なんか…実はサナダが弱いのかもな。」


 「いっこも攻撃当たらないし。」


 「ウソッ…!サナダさんの戦闘力…低すぎ!?」

 「お前それ昔あった広告じゃんw」

 「wwwww」

 


サナダ) (クソッ…、言いたい事…ゴミ共はこれだから信用ならないんだ…じゃぁもう終わらせてやりますよ。)

 ーポケットから山切り型の鋼鉄ナックルを取り出し、両手にはめた。



(兵士達) 「ここで来たー!!伝説の鉄拳!!」

 「散々格闘家に使ってたヤツな。」

 「…不利だからって今使う?しかも神聖な決闘で!?」

 「でも懐かしいなぁ!まさか本物観れるとは!デューク・マーダー!!」

 「いくら強いってマエダの出自サラリーマンだぞ!?鉄拳はちょっと萎えるわー。」

 

兵士を二分する賛否両論の嵐の中、

 サナダは前田の顔面目掛けて重い右フックを放った。

 

…マエダはこれまで通り左前腕でフックをいなした。 

 …が、今回の結果は違った。山切りのチタン・ナックルがマエダの前腕に喰い込んだ。


 マエダ)「あ、あいたぁぁぁ!!」


マエダはピョンピョン跳び上がり、左腕を抱えながら悶えた。


サナダは“それ”を追いかけ、次に左脇腹をえぐった。


ゴゴゴキッ。



…嫌な音がした。何本か何かが折れた音だった。


 マエダ)「いやぁぁ!!イ、痛ィー!!」


激痛によろめいたマエダの右足爪先が条件反射でたまたまサナダの首元をかすめたので、サナダは一旦攻撃を止め、数歩後退した。


 ーしかし意図した攻撃では無いと知ったサナダはマエダを仕留めにかかった。



 ーがその時、リング外から空缶が投げ込まれ、サナダの頭に当たった。


 サナダ) 「!」


 (兵士達) 「おい、お前いい加減にしろ!」

 「これは決闘だ!前田は素手じゃないか!!」

 「この恥知らずが!」

 「やり過ぎじゃあ。」

 「無名の頃のアンタじゃないんだぞ!余りにも酷い!!」

 「こんな試合…孫にどう話せって言うんだ!」

 「お前さん軍人じゃねぇ!」


 しかしサナダはリング外の声を無視し、今度は苦痛で転がるマエダの右側頭部を殴った。


 マエダ)「ギャア!ちょっと!!痛ァアァァ!!ウアアアア!!!」

  ーかつて経験した事のない痛みにマエダは悶絶し、失神しかけていた。


 ーその時マエダの右耳から何かが落ちた。


 木戸)「いかん!まずい!外れてもた!!」


 佐藤)「え!!何?ヤバ!?もう駄目じゃん…殺される…。」

 

…これは後からわかった事なのだが、これはイヤホンだった。マエダが決闘に勝つために木戸が思い付いた作戦で、マエダの恐怖心を退け、闘いに集中できる様に阿波踊りの音頭を闘いの間流していたのだった。


…このお陰でマエダは伝統技能を喚起し闘いに集中できていた。というよりマエダは闘いの最中は踊りに身を委ね、夢遊又は酩酊に近い状態であった。


 ーしかしナックルパンチの連打によりイヤホンが潰れ、肋骨が折れ、左腕は垂れ下がり、顔は赤黒く腫れ上がり今まで…完膚なきまでにサナダを制してきたトランス……ダンスはもう観れなくなってしまった。



 サナダ)「wwどうしました? 前田さん。 先程迄とは別人の様ですよ? 痛みに戦意を削がれましたか(笑)。や、みじめですw。本当に。素人が決闘なんてしちゃいけませんよ。

…これ?ナックルが気になります? 何言ってるんです。

 …本物の戦場では銃も刃物も何でもありなんですよ?こんな物ごときにモチベごと崩れてたんじゃぁ…今死んだ方がいいですw」


 (兵士達) 「あーあ終わったな…。」

 「もっと観たかったな。」

 「でも…マエダには驚かされた!」

 「クネクネしながら闘って…映画みたいだったよな!」

 「…良かったよ。」

 「もっと観たかった。正直。」


 「…あのさ、俺の婆さんが徳島出身で、アイツの…いや俺の婆さんが昔あんな踊りしていてな。」


 「武術じゃなくて、やっぱりあれって踊りなの!?」


 「思い出すから待って、確か婆さん…婆ちゃんが唄って…『エライヤッチャエライヤッチャヨイヨイ…』。」


 「お!?それ知ってるぞ!!俺の叔父さんも唄ってた。『踊る阿呆に…。」だっけ?」


 「知ってる。それだよ!!間違いない!」


 「……なぁ、マエダってあんなに勇気あったのにずっと腰低くてさ…それを俺たち面白がって…散々な事してきたよな?」

 

 「ーおい!バカ今それ言うか!?」


 「…でもまぁ、その通りなんだけど…いや、そうだ。ー確かにそうだった。」


 「…だからさ…今マエダに謝ま…今こそマエダを応援してやらないか?このままアイツが一人ぼっちで死んだら俺たちこの先ずっと悔やむと思うんだ。


言っても俺達みんな、マエダとは


 … 同世代だろ?」


 「わかった。俺はする!」


 「俺も!俺も!!俺も!!」


 「では、いくぞ!皆そーれ!!」



(兵士達)

…ヨイヨイヨイ、

『…踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ。

 同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損』


ハイッ、

 『踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ。

 同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損』


ソレッ、

 『踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ。

 同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損』(くり返し)



 サナダ)「う、五月蝿い!ゴミ共め!!おいお前ら『指名試合』って知ってるか? ”これ“が終わったらお前ら全員一人一人指名して殺し…!」


マエダ) 「…私の友人達にまで手を出さないで下さい。」


ー皆の音頭が彼の身体を持ち上げるかの様にマエダはゆっくりと立ち上がった。


 (兵士達)「ウオーーー!!」

 「いいぞ!サナダなんかやっちまえ!!」

 「さすが!キングオブダンシング!!」

 「マエダ!!マエダ!!マエダ!!マエダ!!」


 サナダ)「へェ…貴方、肋骨が内臓に刺さって顔面が絶賛陥没中ですよ?…バカなのですか?」

 ーやれやれ立てる状態ではないはず、と呆れている。これまで手にかけてきた格闘家なら泣いて命乞いしている時間帯なのに。それをカメラに収めて俺は有名人になったのだ、と。

(しかし間違いない。コイツはもう闘えない。)



 佐藤)『…スゲェよゴロちゃん、泣)。

でも、もう立っちゃあ駄目だ。どうせもう踊りなんて出来ねぇんだ…。」



 木戸)「…阿波踊りにはな、


 『男踊り』と『女踊り』があってな…。」


 佐藤)「泣)え…。」



 木戸)「…ホンにたいした大将よ。


  今まで踊ってたんは体幹重視の


 『女踊り』ぜよ。


 顔や片腕やら胴体壊されても、


 ー片腕と両足はまだ動くんじゃ。


 

 観とけよ。こっからは、



 ゴロはん十八番の



 ー阿波踊り一番の華、



 『男踊り』


 のはじまりじゃ!!」



(続く)


東京都青梅市新日本軍化学工場より


(通信遮断)










 

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