第八話
謫徒は愕然としている。
「そんな。なんだこれは。」
長袍は破り裂かれ、髪も乱れに乱れて、謫徒を知る人が見たら、彼とは分からないだろう。世捨人の如く変わり果てた身を引きずるようにして、ようやく城主府に辿り着いた。
そしてその凄まじい略奪の風景を目の当たりにした。
「我々が準備していた宴はどうなったのだ!ま、まさか踏み躙ったのか!」
謫徒は中講堂まで立ち入っている。心血注いで準備した山海の珍味がぶちまけられ、料理人から兵士から屍が転がり、まさに地獄絵図と化し、堂内の床面のそこかしこに血の海が広がっていた。
「奴らは歓迎を準備していた家人達を惨殺したのか!壘家の聖地をこれほどに荒らしたのか!引き込んだ我々を裏切ったのか!」
「うるせえ!」
地獄の番人よろしく抜き身をぶら下げて堂内を闊歩していた賊兵達が、謫徒に寄ってきた。
「壘家の奴がまだいたのか。」
「殺せ殺せ!」
「黙れいっ」
取り囲む野盗達に対し、謫徒は一喝する。さすが名族壘家を切り盛りした閣僚、みすぼらしい身なりになっても、彼の威厳は低俗な賊兵に対して良く効いた。皆、目を見開いて動きを止めた。
「姓は謫、名は徒、壘家の参謀だ!塊協半に取り次げ。謫徒が来たと取り次げい!」
歯が折れ血塗られた口を開き、真っ赤な飛沫を吐き散らして、謫徒は叫んだ。
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5時。夜が明け始めた。
揆朋楓の眼に、色々なものが見え始める。
庭園に面した大回廊には、宴席に運ばれることなく飛び散った料理と、壘渋邸の者達の夥しい血肉が入り混じって、ぶちまけられている。
庭園には薄灰の奇岩たちが、少しづつ暁光に照らされ始める。
懸厘が弾むように歩み寄って報告する。
「東棟の将兵も全部縛り上げたよ。これで全部じゃないかな?」
壘渋邸を完全に制圧したということである。これで、巨城坦陸は野盗達の手に落ちた。
「出ておいでー」
…
壘魍は逃したようだが。
揆朋楓は、堙撞殃の声にか、こたびの壮挙にか、とにかく面白そうにその大きな口で笑いながら、庭園の上に顔を見せ始めた太陽を仰ぎ見る。腰に下げた橙の鞭が、朝日を浴びてひときわ鮮やかである。殺戮の現場なのに、長躯黒髪の女戦士は、ひどく美しかった。




