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東狩獲城  〜『斐界群史』詳伝  作者: 適当館 剛
第七章  剣髯狩坦
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第参話

 荒武者どもが

「うおあああ」

 という鯨波の声とともに、城主府の門内に雪崩れ込む。


「さあー!」

 揆朋楓は橙色の鞭を振りかざし、叫ぶ。

「こん中にいるのは、お前らの嫌いな搾取の張本人だよ。だから、ここからは略奪、暴行、なんでもありだっ。やっちゃえ、やっちゃえー!」


 甲高く()く、夜の鴉が如し。

 揆朋楓のあげる歓喜の煽りは、匪賊どもの雄叫びの中をつんざいて、居合わせた何百人もの耳に届いた。


 広大な庭園。

 樹の下、奇岩の平面、そここにまた「義軍歓迎」の朱い派手な幕が下がり、貼られている。


 巨大な門扉。

 木造りの瀟洒な扉を叩き割って宮殿内に侵入すれば、玉石を延べた回廊が、遥か先まで続く。


 揆朋楓は大股で進む。

 邸内で遮二無二暴れまわる兵卒の間を、淀みなく闊歩していく。


 壘渋の豪邸では、あちこちで振る舞いの料理が準備されていた。


 ふと隣に女武者が立った。

「朋楓さん。こりゃ、あたしらへのもてなしなんでしょ。籠城してたにしては豪華だけど。それと『義軍』ってのも一応、当たってるんだけどねえ。」

 懸厘だった。

成人女性としてはかなり背が低く、揆朋楓と並ぶと大人と子供以上の差異が生じる。横幅があって、姿形は球に近い。右手には、血みどろの巨大な肉切包丁を握っている。この夜にどれ程の敵を屠ったのか。


「我が軍が渤因連合12万を追い払ったんだもんね。感謝する気持ちは分かるけどさ。それにしてもねえ。」

「悲しい勘違いだねっ、と。」


 懸厘は目の前を逃げる下男に、肉切包丁を、ぶん、と振り下ろし、彼を両断した。

 鞭で手のひらを打って、懸厘の手並みに拍手を贈ると、揆朋楓は「ふん」、とため息をつく。


(滑稽だねえ。我等は渤因だけを敵視してるんじゃない。これまでの搾取階級を、民を顧みない支配者を、ぶっ潰そうとしてるんだ。)


 宮殿の連中は、宴の用意を慌てて止め、逃げ惑い、中には刀を取り出して抗戦する者もいる。


 1人の料理人が剣を構えて揆朋楓に対する。

「卑怯じゃないか。お前らの労をねぎらうため、壘渋様がもてなそうとしたのに、仇で返すのかっ。」

「馬鹿。この料理の材料もお前の食い扶持も、みーんなあたしら坡州の民衆から巻き上げた租税だろ?そんなだから、あたしゃ、壘渋が嫌いなんだ。渤因以上にね。」


 言い終わらない内に電光の如く、剣を抜き打ち、料理人の首を吹っ飛ばす。


 揆朋楓は歯向かう者、逃げる者、構わず片っ端から切り伏せて、闊歩する。


 そして頭の中でつぶやく。

(右に曲がって。そして左に曲がる。)


――――――――――――――――――――


「痛っ」

 謫徒は身体に負った擦過傷(さっかしょう)、裂傷、打撲、青痣(あおあざ)等々、無数の傷に苦しみながら、路上に転がっている。

 3時半。

 坦帖西路は未明の静寂に沈み、彼の呻き声だけが虚しく空気の中に揺蕩っている。

「何故だ。」

 美しく並んでいた彼の白い歯は今や、何本か折れ、残った歯も血と砂で赤黒く汚れていた。


「何故、塊協半は恩ある俺を足蹴にし、といって野盗らしい略奪行為もせず、北に走ったのだ。壘渋様はどうなるのか。」

 仰向けになった彼の目に三日月が眩しい。


「痛い、痛い、私を怪我させ、私をどうするのか。」


 謫徒が転がっている間に、彼を愛した主君、壘渋の命は風前の灯になりつつあった。

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