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東狩獲城  〜『斐界群史』詳伝  作者: 適当館 剛
第四章  狩猟が為、馘る
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第参話

 16時。

 堕叉と運程跌は崖上から址細径の隘路を見下ろしている。

「やはり、死地だな。」

 ひょろりと上背のある堕叉は、久しぶりの陽光を浴びて眩しげに目を細めた。隣に立つ運程跌も細身で、怖々と切り立った崖下を覗き込む。

「本当に細い谷ですよね。横に1、2名しか進めぬ幅のまま東西2km続きます。」

「日が落ちたら油と矢、大石、小石を運ばせよう。」

「この崖上から火矢を放たれたら、下を歩く者はひとたまりもないでしょうな。」

 二人は隘路を眺めて話しながら、崖上を小走りに東へ行く。址細径は所々、広場のように広がっている部分があるが、

「これはこれで渋滞するでしょうな。」

 運程跌の頭には、大軍勢が急激に狭まる箇所で渋滞する様子が浮かんでいた。やがて隘路は墳上河に出た。

「あれ?舟を並べてやがる。」

 墳上河は大河である。初夏の日差しの下に滔々と北流し、橋が対岸の庇州まで架かっている。そして、河岸にずらりの舟が敷き詰められているのが、崖上から展望できた。

「『扼温』― 扼温姐姐(ねえさん)ですか。」

 舟に立つ旗幟を運程跌が遠目に読み取った。堕叉が舌打ちする。

「美獣め、何だってこんな所に気を回しやがるんだ。それも美扼温(びやくおん)なんかを配置しやがって、盤石じゃねえか。」

 と言いつつも舟の配備をじっくり見ていた堕叉は、一転してのんびりした口調で呟いた。

「うん、でも橋は細いし、連合軍が渡河するのは時間がかかる。舟も幾度か往復することになる。そこから」

 崖から河岸に降りる杣道を目をつけ、

「そこから降りて舟に乗りそびれた奴を屠ってもいいしな。」

 青い顔を日に照らしながら、ニヤリと笑った。

 重要地点の実地調査を終えた二人は、売士谷に帰還すべく、崖上から姿を消した。


――――――――――――――――――――


 18時。紫苑色に陰った空に、三日月が浮かんだ。

「諸将、参集くださり大儀である。」

 美獣は居並ぶ連合軍諸将の顔を見回した。

 皺馬丘で今、連合軍の軍議が始まったところである。兄の開会の言葉を受けて、弟の美萊峩が後を引き取った。

「昨日、欄三秀(らんさんしゅう)の首を坦下門(たんかもん)に晒したことで、坦陸城内の士気は地に落ちた。こういう時こそ諸将には警戒を緩めず過ごされたいが、とはいえ、今宵は三日月。さすがに壘渋も夜襲を仕掛けることはあるまい。不寝番もこれまでより数を減らしてよかろうと思う。」

「欄三秀は死んだ。もはや激烈な夜襲を仕掛ける城将は居らぬ。」

 秦州王穂泉煎が口を挟んだ。

 いつも軍議では大人しい州王が発言したので、座の諸将たちは皆、多少奇異の目で見た。渤軍の若武者、帆愚恵繋淹(ハングケイケイエン)等はあからさまに睨みつけている。

(もっと)もらしいことをぬかしおって。我が渤軍は、最も危険な最前線に陣取り、俺なんぞこの攻城戦で父まで亡くしている。それに対して、お前ら秦州軍は安全な赤處山の上に登り、その激烈な夜襲とやらの際も、まともに敵と当たってないじゃないか。)

 などと心中唾棄していた。

 ここで因州の武官、「方鬼娘(ほうきじょう)困士甜(こんしてん)が挙手した。

「当州王弟や秦州王の仰せも尤もですが、今一度戦略の確認を致しましょう。」

「左様、『方鬼娘』の言う通りじゃ。万一夜襲があった場合のこと、中軍まで迫られた場合のこと、そしてこれも万一ですが、この場からの撤退、退()き口の事も再確認すべきかと。」

 因州都相代の喋織(ちょうしょく)が膝を打って応じた。いささか大仰な感もあったが喋織の言に皆うなずき、連合軍諸将は軍議を続けた。


――――――――――――――――――――


 その頃。

「ここが売士谷の入口じゃ。」

 三日月の空の下、鎧の如き筋肉を盛り上がらせた壮漢が、100人からの荒くれを引き連れて、夜空を背景に真っ黒に浮かび上がる丘陵を見上げていた。

「行くぜ」

 これなん、土考と、その後ろに従う坂外窟(はんがいくつ)の盗賊100名である。

 皆、土考に付いて獣道に分け入っていく。その道の先には、塊協半率いる400の賊徒が彼らの到着を待っている。

 急速に辺りは暗くなり、三日月が空にくっきりと白い。

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