表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東狩獲城  〜『斐界群史』詳伝  作者: 適当館 剛
第参章  雌伏売士谷
32/67

第伍話

 閂滔登は、昼にかけて坂外窟の隠れ家に配下の百人を集めた。

「なんじゃ、なんじゃ。」

「何でも塢宜の塊協半がわしらを誘ってるらしくての。親方が悩んどるらしい。」

「碁略の兄貴が大反対しとるんだろ?」

「というか、そもそも何に誘っとるんだ?」

「というか、えらい暑いなここは!」

 腕っ節だけは強そうな連中がぎゅう詰めとなり、低温初夏と称される気候下にあって、この空間だけは蒸し暑い。

 自分の名前が耳に入ったのだろう。百人の最前列に胡座(あぐら)をかいていた盃碁略が憤然と立ち上がり、白い長袍に包んだ痩身を震わせた。

「大反対だあ?そんな緩いもんじゃねえ、なんで塢宜の賊の為に俺らの命を危険にさらさにゃならんのだ。閂頭目がいらしたら、てめえらもちゃんと申し上げるんだぞ。付いて行きません、ってなあっ」

 その時、12時丁度。隠し扉をバン、と開けて、閂滔登が飛び出てきた。

「碁略、てめえ!」

 盃碁略にとっては、突如そこに出現し、幻術のように見えたろう。驚愕して顎が落ちている。

「か、頭っ」

 盃碁略よりも数段背が低く、また痩身だから本来貧相に見える筈だがそうではない。少々の衝撃ではぐらつかぬ、芯の強さが滲み出て、威風がある。

「これから大博打(ばくち)って時に、兵隊どもの気勢を削ぎやがったな。」

「博打って、じゃあ頭、まさか」

「勝つ気のない奴はここに不要!」

 叫ぶや否や閂滔登は腰刀を抜き打ち、盃碁略の頭頂部から唐竹割りに斬りさげた。

 白い長袍に包まれた痩身は、腰のあたりまで左右に分断された。

「なあ?土考将軍よ!」

 己れの腹心を凄絶に粛清した閂滔登は、血飛沫(ちしぶき)を全身に浴びつつ邸の大扉に向けて呼ばわった。


 ざっ

 固い黄土を踏みしめる音が聞こえ、百人の手下達は一斉に背後を、音のした邸の大扉の方を振り向いた。

 そこに土考が立っている。

 鎧のような筋肉に覆われた巨体をそびやかしていた。

「土考将軍よ」

 閂滔登は再び呼びかける。

「あんたが心酔する塊協半殿に会ってみたい。しがねえ俺ら盗賊崩れ百人の命で、坡州の民衆を塗炭(とたん)の苦しみから救ってくれるんだろう?それが本当なら、こんな美味い話はねえじゃねえか。」

 そして血塗られた刀で、足元にいまだ血を吹き出している盃碁略の遺体から、左右に割れた頭を切り離し、頭上に掲げた。

「なあ?お前らあ!」

 彼の手下百人の頭の中は大混乱し、あまりに混乱しすぎて皆呆然として、閂滔登が掲げた血塗(ちまみ)れの生首を見せつけられて、その鮮血の赤に突如として異常な昂奮を掻き立てられていった。

 う、うおおお

 そして鬨の声が隠れ家から溢れた。


 1時間程して、土考の姿は坂隷の城内にある。

「ふふ、やったぜ。」

「本当ですか?」

 肉屋の裏路地、豚やら鶏の肉塊が林のようにぶら下がる間に、土考は諜者の阯駒を呼びつけていた。

「外の頭領を口説き落としたのね。」

「そうだ、おっと。」

 阯駒は出し抜けに土考の唇を奪おうとしたが、土考は身を(かわ)してうまく避け、

「売士谷の大将に伝えてくれ。閂滔登の百人が合力、20日19時にはそっちに着く、とな。」

 そう伝えた。

 そして阯駒は頰を膨らませたが、その頰に土考が口づけしたので、機嫌を直し、裾をからげて風のように立ち去った。

 土考は(きびす)を返し、再び閂滔登の隠れ家に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ