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step3.アプローチ(2)

 全国にチェーン展開している洋菓子店では、とどのつまり製品は工場生産だ。各店舗に製造室を設けてデモンストレーション的に見せることが主流になってからは販売店でもそれらしい作業をするようにはなったが、あくまで半製造。

 イチゴのショートケーキ用のスポンジは丸型やスクエア型でパッケージになって配送されてくるものだし、焼き立てをアピールできるベーカリー品のアップルパイはオーブンで焼き上げるだけの冷凍品だし、シュークリームのパイ生地や包み込むカスタードクリームもそう。フレッシュタルトのタルト台や夏の主力製品であるジュレやパルフェもカップごと冷凍されて送られてくる。


「ここで作っているんじゃないの?」

 ごくまれに眉をひそめて野暮なツッコミを入れてくる客がいると、そんなことを言うのだったら個人のパティスリーに行ってくれ、と由基は思ってしまう。

 パティスリーというからにはその店にはパティシエがいる。だが由基が店長を勤めているようなチェーン洋菓子店ではパティシエはいらない。職人はむしろ邪魔になる。


 由基が新人の頃、研修をした店舗にとある電話がかかってきた。電話を受けたスタッフの再現によると「私は都内の老舗ホテルでケーキを作る仕事を長年やっていたのですが、そちらのお店で製造の募集をしていませんか?」という問い合わせだったらしい。それを聞いた店長は一言、「うちには職人はいらねえ!」と言い捨てた。


 まったくその通りで、由基自身、製菓の勉強をした経験もないのに人員の都合上こうして製造に入っている。マニュアルにそって工場からくる材料を加工すればいいのだから。

 その点、琴美は由基より優秀で、飾りのフルーツの切り方は完璧だし、ショートケーキの間のイチゴもマニュアル通りに均一に並べる。だからカットしたときの断面がキレイだし、セロファンの巻き方も丁寧だ。

 販売スタッフによれば、由基が作ったものか琴美が作ったものか、一目でどっちだかわかるという。自分がバカにされているのだとしても張り合うつもりは毛頭なく、優秀な人材が居てくれるというのはありがたいことだと由基は思うのだ。


 手早くフルーツタルトを仕上げ、予約のバースデーケーキ用の生クリームを泡立てるためクリームと砂糖の入った巨大なボウルとホイッパーをミキサーにセットしていたとき、売り場の方で電話が鳴った。今店頭にいるスタッフは一人きりだったので、立て込んではいないかと由基はそっちを窺う。店内に客の姿はなく、スタッフはすぐに電話を取ってくれた。


 しばらくしてからスタッフが製造室に入ってきて由基を呼んだ。

「夕方、エリアマネージャーが来るそうです」

「今日?」

「はい」

「急だなあ」

「隠しておくものはないですよね」

「うーん。ヤバそうなものは出してないと思うけど。手が空いたらチェックするよ。掃除をなるべくしといてね」

 やれやれ。なんだってアイツは日曜なんかに見回りになんか来るんだ、と由基は少し苦々しく感じた。

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