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step2.ロックオン(3)

 そんなこんなの数日間がすぎ、さすがに由基はなんとかせねばと考えた。話の通じない子どもなど放っておくのが一番なのだろうが、良識的なことを言えば、彼を目当てに彼女が夜歩きしているときに事件に遭遇でもしたら、それはやっぱり居たたまれない。良識ある大人として、きちんと言い含めるべきなのではあるまいか。

 そう考えた由基は、冷静になるまじないをあれこれ口の中で唱え、怖くない怖くないと自分に言い聞かせながらアコと対面した。


「えーと、アコちゃん」

「きゃー、やった!! やっとおじさんが名前を呼んでくれた」

 ぴょこんと飛び上がって両腕を広げるアコとの間にビジネスバッグの盾をかざしながら、由基は努めて穏やかに話す。

「君がきちんと話を聞いてくれるなら俺も嬉しいんだけど」

「うん、わかった! なあに? おじさん」

 猛獣使いになった気分で由基はそろそろとバッグを下ろして、自分もきちんとアコの顔を見た。


「思うのだが、君のような女子高生がふらふら夜歩きするのはよくないよ」

「えー別に慣れてるし」

「いや。よくない。もし何かあったらって考えないの?」

「えー、ないし。何かなんて」

「うん。君くらいの年齢だと怖いものなんか何もないだろうからそう思うのだろうけど、現実には、何かっていうのは誰にでも起こるんだ。俺にだって君にだって。だから、なるべく何かが起こらないように行動することが賢明なんだ」

「ええ? よくわかんないんだけど」

「君が事故に合ったり事件に巻き込まれたりして怪我でもしたら、悲しむ人がいるだろう?」


「……おじさんは? アコに何かあったら悲しい?」

 ちろっと上目遣いで窺ってくる眼つきに危険を感じはしたが。悲しいというよりは自らの社会的責任を危惧しているわけなのだが。

「もちろん」

 背に腹は代えられない。これも駆け引きだ。

「そう?」

 アコはぱっと照れくさそうに笑ってスマートフォンを取り出した。

「じゃあ、夜出歩くのはやめるからおじさんのライン教えて」

「は!?」


 どうして、と由基が顔をしかめるとアコも口を尖らせた。

「だって、アコはおじさんに会いたいからここに来るんだよ? それしか会う方法がないんだもん。教えてくれないならここに来るのやめないから」

「う……」

「教えてくれるまでずっと待ち伏せしてやるんだから」

 彼女の執念深さはここ数日でいやというほどわかっている。

「わかった」

 由基は渋々自分のスマホを出した。

「教えるけど、おじさんはあんまりラインとかは」

「ダイジョブダイジョブ。アコが好きに送るだけだから」


 本当だろうか。不安ではあるが、こうなったらぐだぐだも言えない。由基のQRコードを読み取ったスマホの画面を見て、アコは軽く首を傾けた。

「はせがわゆうき?」

「よしきだよ。はせがわよしき」

「ヨシキ。ヨッシー……うん、ヨッシーだね!」

 おいこらなんだ、その呼び方は。

「よろしくねヨッシー」

 当の本人が見ている前で、アコはスマホを顔前に持ち上げて画像設定をしていない由基の無機質なアイコンに軽くキスをした。不覚にも心臓が跳ねる。


 無表情でうろたえる由基の手の中でスマホが震える。目を落とすと、前世紀のギャルの象徴であるハイビスカスの画像のアイコンからよろしくねのスタンプが届いていた。


 マイカーに乗り込み駐車場を出る。由基に向かって手を振るアコの姿をバックミラーでちらりと見ながら由基の胸に疑問が広がる。駆け引きに負けたのは果たしてどちらなのか。

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