step14.リグレット(3)
そんなこんなでやり過ごしたバレンタインの翌日、仕事帰りに琴美と会った。
「やっぱり。渡しておきたくて」
駅前通りの街灯の下、チョコレートの代わりだというケークサレの包みを差し出され、由基は迷った。
「深い意味はないです。今までお世話になったお礼と、ケジメのつもりです」
すっきりと心の整理がついたような琴美の笑顔に、やっぱりこっちの方が置いて行かれるみたいな心地になりながら由基はプレゼントを受け取った。
「わたし、初めてだったんです。ちゃんと人を好きになったのも、ちゃんと告白したのも、ちゃんと失恋したのも。ちゃんとできたから、友だちにも話を聞いてもらえて、慰めてもらって。そういうコイバナをできたのも初めてなんだなって」
そんな琴美の話を由基をただ苦笑いしながら聞いた。「ろくでもないオッサンだね。振られて正解だよ」とか盛大に悪口を言われていそうだ。
「たくさん初めての経験ができました。だから店長には、ありがとうございます、です」
なんて返事をしたらいいのかわからない。ことちゃんがステキな女の子だからだよ、と言いたかったが胸の中に留めておいた。
「アコちゃんにも感謝です。あんなふうに本音を言い合ったり、今まで誰ともしたことなかったから。あのときも、アコちゃんが一緒で良かったなって。わたし年上なのにフォローしてもらっちゃって」
そうだね、と頷きそうになって由基はそこでも留まる。琴美はお見通しのようにそんな彼の顔を見上げた。
「わたし、アコちゃんのこと好きです。失恋したけど、まだ当分は店長のことも好きだと思います。他に好きな人ができるまでは」
「ことちゃんには、まだまだこれからたくさん出会いがあるよ」
ふふ、と笑って琴美は明るく頷いた。
「そうですね。そう思えるのも、今のバイトができたおかげです」
あともうしばらくお願いします、とお互いにあいさつしあって別れた。ちょうど乗り場に来ていたバスに乗り込む琴美を見送ってから踵を返すと、
「わっ!」
いきなり驚かされた。こんなことをするのはアコしかいない。
「こら。こんな時間に」
「アコだってバイトの帰りだもん」
そう言って昨夜も待ち伏せされてチョコレートを押しつけられたばかりである。
「いいなあ、ことちん。ヨッシーが初めてだって」
どこから盗み聞きしていたのか知らないが、アコが言うと語弊があると感じてしまう。
「あたしも初めてはヨッシーが良かった」
いいから早く帰りなさい、といつものようにお説教するつもりで振り向くと、アコは黒々した瞳を見開いて由基をじっと見つめていた。この子のこういう眼つきには、未だに怯んでしまう由基である。
「……何?」
「アコ、わかっちゃったんだよね」
絶対この後、とんでもないセリフが飛び出す。予感がして身構えた由基だったが、アコの言葉はそんな彼の予想の軽く斜め上空をかっ飛んでいくもので。
「由基、アコと結婚してください!」
ナヌッ!?




