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step11.リスタート(4)




 クリスマスの飾りを撤去して歳末セールのものに取り換える。お客の視界に入る店頭ではイベントごとの切り替えが勝負だ。さいわい、大みそかには閉店時間を早めて元日も休みになるから年始の飾りつけはゆっくりできるが、店を一日休みにするならそれはそれで在庫に気を遣うし仕入れの注文数も調整しなければならない。定休日自体は嬉しいのだが。


 三が日に売り出す商品のデコレーションを琴美とふたりで確認する。自分用のメモを取り終えた琴美は、小さな帳面とボールペンをコックコートのポケットに戻しながら控えめに口を開いた。

「初詣のことなんですけど」

「……」


 返事を先延ばしにした時点で断る理由がないことは見え見えだったのだし、三咲から「逃げてるばかりじゃ恥ずかしい」と言われた手前、受けるべきなのだと思えてしまったりもして、それでも正直、面倒くさいなという気持ちが大きいわけでもあり。


「一緒に、お参りに行くだけでいいんです。お願いします」

「そうだね。たまには、初詣も、いいだろうし」

「ありがとうございます!」


 良かったぁと、ほっとした様子で手を握り合わせていた琴美は、すぐにまた眉根を寄せて妙なことを言い出した。

「すみません。もうひとつ、お願いがあるんです」

「え」

「わたし、元日に、いちばん初めに店長と話したいんです」

「?」

「新しい年に、店長が最初に話す相手も、わたしだといいなあって思うんです」

 なんじゃそりゃ。




 と思っていたら、アコまで同じことを言い出した。

『じゃ、十時に駅前に集合ね』

「わかった」

『ヨッシー、それまで誰とも口きいちゃダメだよ』

「は?」

『ダメったらダメ。新年にいちばん最初に由基と話すのはアコじゃないとダメなの!』

「なんかの呪い?」

『なんでもいいからダメなの。アコとあけおめするまで口開かないで』

「無茶言わないでくれよ」

『ムチャじゃないもん、アコも頑張るからヨッシーもやって』

 電話の向こうでアコが目をうるうるさせている気配が伝わってくる。

「悪いけどパス」

『パスなし! いい? アコ以外の人と最初にしゃべったら呪ってやるんだから』

 やっぱり呪いじゃないか。





 アコがしつこいのでなし崩しに訳のわからない約束をさせられ、そういえば、琴美にも同じ頼み事をされたなと思いはしたけれど、他愛もないことだと深くは考えなかった。当日、会ったときに確認されても、「誰とも話していない」と流せばすむことだろう。


 大みそかの夜、通常より一時間早く閉店して仕事を終え、スーパーに寄り道して年越しそばと酒を購入して家に帰った。物の少ない寒々しい部屋でテレビを見ながらそばをすすってシャワーをすませる。


 布団に潜り込みながら、明日実家に電話をするのを忘れないようにしなければと考える。また母親からどうして帰省しないのかと責められるだろうが、長期の休みを取りにくいのだから仕方ない、と言って宥めるしかない。それも毎年のことだ。


 テレビのニュース番組では全国各地の年越しの準備の様子が流れている。もうすぐ新しい年が始まる。とはいえ、由基の日常にまるで変化はないし、それでいいと思う。いいと思うのだ。

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